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ステロールの成分で植物の形が変わる




拡大図(52.5KB)

図6-3 イオンビームで誘発したfrl1 変異体と野生型の花の形態および最も多量に含まれるステロールの化学構造

frl1 変異体では、ステロールの成分が変化したことによって花びらがフリル状に変化しています(右)。フリル状になった部分では、細胞の核が大きく肥大しています(右下、白点)。野生株に最も多量に含まれているシトステロールは、SMT2の働きによってステロイド骨格の28位の炭素にメチル基が付加されていますが(左、赤線)、frl1 変異体では、イオンビームによりSMT2に変異が起きたことによって、シトステロールの含量が低下し、28位の炭素がメチル化されていないカンペステロールが最も多量に含まれています(右)。




 ステロールとは脂質成分の一種で、細胞膜の構成成分などとして重要な役割を果たしています。ヒトがもつステロールのほとんどがコレステロールであるのに対し、植物は多種類のステロールを含んでいることが特徴的です。
 私たちは、イオンビームを活用して単離したシロイヌナズナの花びらがフリル状に変化するfrl1 変異体の原因遺伝子を同定することに成功しました。FRL1 遺伝子は、ステロールの生合成に関わる酵素であるSMT2(ステロールメチル基転移酵素2)を作る遺伝子で、1086塩基からなる本遺伝子に1塩基の欠失が起きたことによって花びらがフリル状に変化することが明らかになりました。SMT2はステロイド骨格の28位の炭素にメチル基を付加する役割を担っており、シロイヌナズナが含むステロール類の約65%を占めるシトステロールの合成に必須な遺伝子です。本遺伝子の変異により、frl1 変異体ではシトステロールの含量が減少する一方、28位の炭素がメチル化されていないカンペステロールの含量が増加していました(図6-3)。
 SMT2は植物界で広く保存されており、本遺伝子の活性を制御することによって、花びらなどの植物の形を改変できる可能性があります。



参考文献
Y. Hase et al., Ectopic Endoreduplication Caused by Sterol Alteration Results in Serrated Petals in Arabidopsis, J. Exp. Bot., 56(414), 1263 (2005).

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たゆまざる探究の軌跡−研究活動と成果2005
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