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10 システム計算科学研究

10-1 先端的計算により原子力分野における実験の先導・代替、萌芽的研究を推進

図10-1 原子力分野における計算科学の役割
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図10-1 原子力分野における計算科学の役割

システム計算科学センターでは、計算科学研究、計算機技術研究、運用・保守支援の三位一体の体制で先端的計算を実施することにより、原子力分野における実験の先導・代替、萌芽的研究を推進してまいります。

図10-2 ITBL計画で構築された環境
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図10-2 ITBL計画で構築された環境

ITBL計画に参加している研究機関(協定締結者や共同実施者等)の協力により、27計算機(20機種、約57TFLOPS)のスーパーコンピュータ資源が提供され、ITBL基盤ソフトウェアにより共用化されています(図は2005年3月時点のもの)。ドイツのHLRSにあるSX-8(12TFLOPS)もITBL基盤ソフトウェアとUNICOREとの相互接続によりITBLの環境で利用可能となっています。ここで、アプリケーションの研究開発として実施された基幹アプリケーションも示されています。

原子力のような巨大技術においては、計算科学研究が重要な役割を担っています。原子力では、予算や環境等の制約により実験が困難な場合も多く、計算機によるシミュレーションは従来から重要な研究手段でした。特に昨今の計算科学の進展により、計算機を用いた研究は、単なる確認・検証の手段を超え、金属中の不純物による脆化機構の発見といった新たな理論構築の先導を努めたり、核融合の実験に見られるように計算結果から実験方法を検討したりというように、「理論」及び「実験」と並ぶ第三の研究手法として広く認知されるに至っています。

このような計算科学に対する期待にこたえるため、システム計算科学センターでは、下記二つの研究方針を展開しており、これまで様々な成果が得られています。
@計算科学研究、計算機技術研究、運用・保守支援の三位一体での推進

計算科学基盤開発と原子力計算科学研究の2本立てにより研究を推進しています。前者は、研究者が高い専門性を要求するスーパーコンピューティングを駆使できる環境を常に整えておくことを目的としています。これまで、ITBL(Information Technology Based Laboratory)計画に参画することにより、総計算機資源50TFLOPS(1テラFLOPSは1秒間に1兆回の演算が行えることを意味する)を超える仮想研究環境を実現しました。後者では、原子力推進における重要事項である耐震強度やナノデバイス開発、人体への放射線の影響などをターゲットとした研究を進めています。特に、耐震強度では、プラント全体を丸ごとシミュレーションする研究を進めており3次元仮想振動台を試作し、部品数1000点規模の問題で検証しました。ナノデバイス開発では、超伝導体中性子検出器の高精度化のためのシミュレーション技術を開発しました。

これらの成果は、高性能計算科学分野で世界最大の国際会議であるSC05において、それぞれHonorable Mention賞受賞、Gordon Bell賞ファイナリスト選出と高く評価されました。
A所内連携強化による理論・実験研究との分野横断的展開

計算科学の分野横断的特質をいかし、計算科学を切り口に所内連携研究を推進し、原子力研究の各分野の研究の高度化、効率化に寄与しています。特に、理論シミュレーションによる顕現化や実験データの補間による現象の分析、仮想原子炉に代表される実験施設のデジタル化による計算機内での実験施設検証及び高速炉設計のためのデザイン・バイ・アナリシス(解析に基づき設計を可能とする)システムの構築などを進めています。

次に(1)に記載したITBL計画において、これまでシステム計算科学センターが実施してきた研究開発の内容について簡単に報告いたします。

システム計算科学センターは、e-Japan重点計画に位置づけられた国家プロジェクトInformation Technology Based Laboratory(ITBL)計画(2001年度〜2005年度)に参画してまいりました。ITBL計画では、その目的どおり、インターネット上に散在する計算資源、知識、ノウハウなどをネットワーク上に共用化するための研究開発を実施することにより、複雑で高度なシミュレーション、遠隔地との共同研究を容易に行える仮想研究環境を構築いたしました。

ITBL計画の中で、当センターは、仮想研究環境の基盤となるソフトウェアやこの環境で活用されるアプリケーションソフトウェアの研究開発及び利用推進活動を実施してまいりました。これまで、国内外の大学や研究機関との協力により、スーパーコンピュータ資源の総量としては、57テラFLOPSという非常に大規模な資源が共用化されています。ITBL計画への参加機関数は、大学、研究機関、企業など併せて78機関となり、参加者は600名以上となっています。

ITBLで構築された環境の国際展開として、ヨーロッパで研究開発が進められた類似の基盤ソフトウェア(UNICORE)とITBL基盤ソフトウェアの相互接続を実現しました。これにより、ドイツにあるシュトゥットガルト大学高性能計算センター(HLRS)との国際協力の下、HLRSのスーパーコンピュータもITBLの環境から利用可能となりました。

現在は、ITBL計画で得られた知見を基に、原子力分野に求められる計算科学基盤の構築に向け、原子力グリッド基盤(AEGIS:Atomic Energy Grid Infrastructure System)の研究開発を進めています。このような環境を世界規模で実現し、世界に一つしか存在しないような原子力巨大実験施設を世界中の研究者が世界各地から利用できるようにするため、ドイツ以外にも、フランス、米国と国際協力を進めています。加えて、2006年度開始の国家プロジェクト「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」計画に参画し、全国の大学・研究機関を有機的に連携した最先端学術情報基盤の形成に向け、その基盤となるソフトウェアの研究開発も進めています。