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11 核不拡散科学技術開発

11-1 核不拡散科学技術開発の方向性

 

図11-1

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核不拡散科学技術国際フォーラム(2006年5月18〜19日)に世界の核不拡散に関する専門家を招聘し、最新の核不拡散の諸問題につき、意見交換を行いました

 

図11-2 保障措置環境試料分析の流れ
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図11-2 保障措置環境試料分析の流れ

 

図11-3 CTBT国際検証体制の仕組み

図11-3 CTBT国際検証体制の仕組み


核不拡散に関する歴史と現状

核兵器の拡散が続くことを食い止め、原子力平和利用を促進する仕組みとして、1970年に核兵器不拡散条約(NPT)が発効しました。核兵器国には他の国に核兵器技術を委譲しないことと核軍縮への努力を求め、非核兵器国には核兵器取得を放棄する代わりに平和利用の権利を付与する条約であり、非核兵器国には平和利用の検証のために国際原子力機関(IAEA)の保障措置(核兵器の製造に転用していないことの検認措置)を受け入れることが義務付けられました。

NPT体制は、その後35年以上、核不拡散と原子力平和利用を支える基本骨格として機能しています。しかし、1990年代のイラクでの秘密裡の核兵器開発疑惑や、北朝鮮の核兵器開発とNPT脱退など、更に、最近では、イランの濃縮施設の問題についてもいまだ解決が図られていないなど、NPT体制の弱点も指摘されています。保障措置については、未申告の活動等がないことを検証できる保障措置機能の強化などの対応が図られてきています。また、インド、パキスタンのようにNPTに加盟せずに事実上、NPT外の核保有国が存在するという問題もあります。

このような国際情勢を受け、核拡散に直接結びつく再処理技術及びウラン濃縮技術等の機微技術について技術保持国を制限したり、多国間で共同管理しようという提案や、機微技術についてはある期間新たに獲得しようとすることを控えようといった提案、また、米国の新たな原子力政策(GNEP:国際原子力パートナーシップ)では、燃料“供給国”(サイクル国)のみが機微技術を保持し、“受領国”(原子力発電のみを行う国)はこの権利を放棄する替わりに、必要な燃料の供給保証を“供給国”側等から得るという提案など、さまざまな提案がなされています。

我が国は、これまで、核不拡散と原子力の平和利用を両立するために、国際的な規範を遵守するとともに、原子力平和利用の透明性、信頼性を高めるために努力してきており、国際社会では模範となる国です。我が国は、原子力平和利用の先駆者として、新たな制度の検討や、新たな保障措置技術の開発などを通じて国際貢献を図っていくことが重要です。

原子力機構の核不拡散に関するミッション

私たちの核不拡散対応業務としては、国の核不拡散政策立案を支援するための政策調査研究と、国、国際機関を支援するための核不拡散技術開発を2つの柱として、これに加えて世界の非核化の支援、自らの核物質管理の着実な実施、この分野の人材育成・人的貢献を行っています。

機構発足にあたり、「核不拡散科学技術センター」を設けて機構内外と連携して、核不拡散対応業務を一体的に進めていくこととしました。

政策調査研究

自らの技術的な知見に基づき、核不拡散に係る政策研究を行い、国を支援します。現在実施している研究テーマは以下の2テーマで、国内外の研究機関、専門家と連携して研究を進めています。
「日本の保障措置対応等の評価」:日本の保障措置対応等を評価し、ベストプラクティスのモデル化を図り、世界への普及を目指します。
「アジアの原子力平和利用と信頼性、透明性向上に関する研究」:原子力の利用が飛躍的に増加しようとしているアジアにおいて、原子力利用の透明性を向上させる方法について研究します。

また、研究成果の普及のみならず、核不拡散に関して理解を深め、原子力の平和利用を推進するために、インターネット等による情報発信、国際会議、フォーラム等を開催していきます。

核不拡散技術開発

核不拡散体制を支える技術開発として、保障措置の効率化のために、再処理施設、プルトニウム燃料製造施設等において、核物質の非破壊測定機器、遠隔監視システム等の開発を行っています。また、将来の高速増殖炉サイクルシステムの確立に向けた研究開発施設に対して、効果的・効率的な保障措置・計量管理が可能となるように、施設設計段階から考慮すべき先進的保障措置システムの開発を行っています。

更に、未申告の原子力活動を検知するための強力なツールとしてIAEAが採用している保障措置環境試料分析についても、専用のクリーンルーム施設(CLEAR)を設けて世界でもトップレベルの技術開発を進めています。保障措置環境試料分析とは、原子力施設の床等を布で拭取り(拭取り試料)、布上に付着する極微量核物質の同位体比等を分析し、未申告の原子力活動を検知する技術です。

平和利用に対する信頼性を向上させるための技術開発としては、「常陽」において、遠隔監視技術を活用して原子力活動の透明性を高める技術の研究を米サンディア国立研究所と共同で行っています。また、第4世代原子力システム国際フォーラムや、IAEAの次世代炉開発プロジェクトの取り組みに参画し、個々の原子力活動の核拡散抵抗性(核拡散し難さ)を定量化する研究を行っています。これによって核拡散抵抗性の高い高速増殖炉サイクル実現を図ります。

非核化支援

世界の核軍縮・非核化に貢献する技術開発として、これまで、ロシアにおける、余剰核兵器解体に伴い発生するプルトニウムの高速炉での処分の共同研究や包括的核実験禁止条約(CTBT)の国際検証体制への技術的貢献を行っています。

放射性核種観測所では、毎日大気中の微粒子をフィルタで集めて環境放射能を測定し、その観測データをウィーンにあるCTBT機関の国際データセンターに送信することにより核実験監視に寄与しています。

核物質管理

厳格な核物質管理は核不拡散体制の基礎となるものです。核物質管理の中には、計量管理、保障措置対応、核物質防護、核物質輸送が含まれています。これらの業務の中においても、信頼性を高め、効率化を図るための研究開発を行っています。核物質防護においては、原子炉等規制法の改正に伴う核物質防護の強化に適切に対応するための技術開発を進めています。核物質輸送においてもMOX原料粉等を安全に効率的に輸送するための技術開発を行っています。