図1-21 高速増殖炉サイクル候補概念
図1-22 社会的属性による重み
図1−23 多面的評価による高速増殖炉サイクル候補概念の比較
高速増殖炉サイクル実用化調査研究フェーズII(2001年度〜2005年度の5ヵ年実施)の一環として、2050年頃の将来、高速増殖炉を本格導入するために、どのようなタイプの高速増殖炉サイクルシステム(原子炉プラントと燃料サイクルの組合せ) を実用化することが望ましいのかについて、複数の高速増 殖炉サイクル概念(図1-21)を対象に、多面的で客観的な側面から評価を行い (多面的評価)、有望な高速増殖炉サイクル候補概念を明確にしました。
この多面的評価は、高速増殖炉サイクルシステムの概念が、必要としている開発目標に対してどの程度達成しているかを定量的に評価するものです。そのため、評価すべき指標構造の構築、評価基準値の設定、評価手法の開発を実施してきました。
評価視点としては、基準達成型評価の「安全性」、定量評価の「経済性」、「環境負荷低減性」、「資源有効利用性」、及び専門家の判断と定量評価を組合せた「核拡散抵抗性」、「技術的実現性」、「事業容易性」、「社会的受容性」の合計8つの視点を選びました。
それらの評価視点は、各々最高4段階までの下位指標(階層構造)を有しています。定量評価では、効用(満足度や適合度といった意味)関数を用いて最下層指標の各物理量を0〜1の効用値に変換し、適切な重み付けを行って評価します。
ここで、高速増殖炉サイクル実用化に関わるステークホルダー(利害関係者)として、普通の市民、電気事業者、原子力やエネルギーに関係する有識 者を対象に、将来社会の価値観として、どのような視点を重視するかについてのアンケートを実施して、重み付けを行いました。その結果、8つの評価視点のう ち、開発目標に整合した5つの視点を取り上げてみると、普通の市民は、環境負荷低減性と核拡散抵抗性を重視する傾向が強く、電気事業者は資源有効利用性を 重視する傾向が強く、有識者は資源有効利用性、核拡散抵抗性を重視する傾向がありました(図1-22)。
これらの社会的属性の重みを考慮し、経済性、環境負荷低減性、資源有効利用性、核拡散抵抗性、技術的実現性の5つの評価視点を含む適合度(効用値の総和)を算定しました(図1-23)。いずれの場合も「Na冷却炉、先進湿式法再処理及び簡素化ペレット燃料製造法の組合せ(MOX燃料)」が最も高い総合的な目標適合度を示し、本概念は、多面的で客観的な側面から評価された最も有望 な 高速増殖炉サイクル候補概念であることが分かりました。