図5-23 溶解挙動を調べるために作製したスラグ試料の外観写真
図5-24 セメントが共存する系と共存しない系での
スラグ溶解量の時間変化の比較
使用済み核燃料など放射性物質を用いる施設の運転や解体並びに関連する研究活動によって、種々雑多な放射性廃棄物が発生します。これらの放射性廃棄物には、コンクリート、可燃性廃棄物の焼却により発生する焼却灰、フィルタなどの非金属製の廃棄物が含まれます。コンクリート、焼却灰などは、溶融炉を用いて1,500 ℃程度で加熱すると溶岩のように溶融し、その後の冷却によりガラス状の固化体(スラグ)とすることができます(図5-23)。この一連の処理を溶融固化処理と呼び、減容性及び均質性が高く、放射性核種の閉じ込め性能に優れた放射性廃棄物固化体(廃棄体)を雑多な廃棄物から作製する有力な処理方法として、既に原子力機構や一部の原子力発電所の廃棄物処理システムに採用されています。私たちは、この溶融固化した廃棄体を地中に埋設処分する場合の安全評価の信頼性向上を目指した研究に取組んでいます。
スラグを地中に埋設処分した場合の長期的な溶解挙動は、処分システムに多用されることが想定されるセメント材料が地下水と接触することで浸出するアルカリ成分の影響、廃棄物に含まれる鉄などスラグ混入成分の影響、温度の影響などを受けるため、実際の処分環境でのスラグの溶解挙動の解明が求められていました。そこで私たちは、実際の処分システムで想定されるスラグの溶解挙動を解明するため、一般の土木、建築工事に最も用いられている普通ポルトランドセメント(セメント)を使用したセメントが共存する系と共存しない系での2条件でスラグの溶解試験を実施しました。セメントが共存しない系の溶解試験では、スラグの溶解速度は試験初期では高い状態でしたが、試験期間が進むと低い状態に落ち着きました(図5-24)。これは、スラグの主成分であるSiの液中濃度がスラグの溶解初期で一気に飽和状態に達したため、新たなスラグの溶解が抑えられたからです。一方、セメントが共存する系では、スラグは溶解初期から一定な速度で溶解し続けるという特徴的な挙動を示すことが分かりました(図5-24)。これは、スラグから溶出したSiがセメント溶出成分であるCaと反応して析出物を生成し、その析出物にSiが次々に取り込まれることによって液中Si濃度が未飽和状態に維持されることに起因するものでした。この結果から、セメントが大量に使用される処分システムの場合、長期にわたりSiが溶解し続け、スラグの溶解速度が有意な値で維持される可能性があることが分かりました。
今後は、この知見を取り入れ、スラグの一定速度での溶解が長期に亘り継続する可能性を考慮できるよう安全評価コードを改良し、信頼性の高い評価手法の確立に役立てる予定です。