図7-6 2つの流路間を移動する気泡の挙動
図7-7 稠密な燃料集合体を流れる冷却材の挙動
現在の沸騰水型原子炉燃料集合体の熱設計は、実際の燃料集合体構造を模擬して実施した実規模試験の結果による実験式を用いて行われています。このため、燃料集合体の熱設計を変更する場合や新しい原子炉を開発する場合には、新たに実規模試験を実施して、既存実験式の適用性の確認や実験式の修正を行う必要があります。実規模試験には、多くの時間と、多大な費用が必要なので、実規模試験を実施せずに、燃料集合体の熱設計を可能とする手法の開発が期待されています。
そこで私たちは、詳細な二相流解析手法により燃料集合体内の二相流を解析的に評価し、燃料集合体の熱設計を行う、新しい原子炉熱設計技術を開発しています。詳細な二相流解析手法により燃料集合体の熱設計を行うためには、(1)二相流の高精度評価を可能とする数値解析手法の開発、(2)数値解析手法の妥当性の検証、(3)計算量の増大に伴う大規模解析への対応が必要です。そこで、まず、粗い計算格子でも数値拡散が小さく、気液両相の体積保存性に優れた解析手法として、計算セル内の流体を気相と液相の領域に分割し、それぞれの移動をラグランジュ的に扱うことで気液界面の移動を評価する、改良界面追跡法と呼ぶ二相流解析手法を考案しました。
次に、改良界面追跡法を組み込んだ詳細二相流解析コードTPFITを開発し、燃料集合体内に現れる、様々な形態の二相流に対して、解析手法の妥当性を確認するための解析を実施しています。このような解析の一例として、私たちで実施した2チャンネル・水−空気流体混合実験に本コードを適用しました(図7-6)。流体混合部での気泡の移動や形状変化も含め、解析結果は実験と良く一致し、移動した気泡の体積についても、実験の誤差の範囲内で一致することを確認しました。
更に、超並列計算機上での大規模解析を可能とするため、TPFITコードの並列化を実施し、従来の数百倍である、数億個の計算格子を用いた解析を可能としました。超高燃焼水冷却増殖炉の除熱性能の評価を行うため、私たちで実施した、稠密37本バンドル試験体を模擬した体系に対する解析を実施し、燃料集合体内の二相流のような大規模な詳細解析が可能であることを確認しました(図7-7)。図から、燃料棒表面に薄い液膜が張り付いた状態(液膜流)が再現されていることが分かります。現在は、冷却水の沸騰の影響を考慮するための改良を実施しています。
本研究の一部は、文部科学省からの受託研究「超高燃焼水冷却増殖炉用燃料集合体に関する技術開発」による成果です。