7-3 超ウラン元素回収のための新しい有機試薬の創製

−マイナーアクチノイド一括分離用高性能抽出剤の開発−

図7-8 TODGAの構造

図7-8 TODGAの構造

酸素(O,赤色)3分子が錯形成に関与し3座配位子としての特徴を持ちます。また窒素(N,青色)に結合するアルキル基長さを変えて合成することにより、DGA化合物の親水性、疎水性を制御可能です。

図7-9 DGA化合物の抽出容量

図7-9 DGA化合物の抽出容量

図7-9 DGA化合物の抽出容量

各抽出剤で最も高い縦軸の値がその抽出容量になります。下にTDDGAとTDdDGAの構造を示しますが、TODGAと同じ中心骨格を持ち、側鎖のアルキル基の異なる化合物です。

使用済み燃料中にはネプツニウム(Np)、アメリシウム(Am)、キュリウム(Cm)等の長寿命のマイナーアクチノイド(MA)が含まれ、現状の再処理ではNpの一部とAm、Cmのほぼ全量が高レベル放射性廃棄物 (HLW)に導かれます。HLWの地層処分による長期的な環境負荷を低減するために分離変換技術が提案され、MAを分離するための様々な抽出剤が開発されてきました。私たちはMA分離に要求される抽出剤の課題((1)高い抽出能力を有する、(2)プロセスで用いる希釈剤に容易に溶解する、(3)使用後焼却処分可能な、(4)高い硝酸溶液で利用できる)を解決する新抽出剤を開発しました。この抽出剤をTODGA(N,N,N',N'-TetraOctyl-DiGlycol Amide、図7-8)と命名し、これは二つのアミド基を繋ぐ炭素鎖の中にエーテル酸素を持つ独特な構造をしています。この抽出剤の大きな特徴の一つに3座配位性という、今までプロセス検討されたことのない配位能力があります。TODGAは 3、4価のMAの抽出に特に有効であり、3M硝酸溶液からの分配比は数百から数千と評価されています。この数字は従来抽出剤と比較しても百倍程度高い値であり、優れた性能を確認しました。

TODGA抽出溶媒のプロセス適応性評価の一環として、抽出容量を測定しました(図7-9 )。この情報はプロ セス最適化計算やプロセス規模の評価に役立ちます。 また、抽出容量の高い抽出溶媒の方がより経済性の高いプロセスを設計することができます。TODGA抽出溶 媒は高い金属濃度条件で使用すると第三相を生成し、その結果低い抽出容量の値を示します。これは経済性の高いプロセス開発やミキサセトラ運転時に問題です。そこで、TODGAより疎水性の高いTDDGA(N,N,N',N'- TetraDecyl-DiGlycol Amide、図7-9 )やTDdDGA (N,N,N',N'-TetraDodecyl-DiGlycol Amide、図7-9)を合成し、これを用いて抽出容量を測定したところ、同じ条件でTODGAの4-5倍程度高い値を示すことを確認しました。この値は化学反応から算出される抽出容量の限界値に達するもので、かつ第三相を生成しないことを確認しました。

更にTODGAの誘導体である、水溶性のDGA化合物を開発し、これを有機相中のMAを水相に逆抽出する試薬として利用する研究が始まっています。この水溶性DGA化合物は、(1)水中へ溶解度が高い、(2)MAに対して高い錯形成能力を持つ、(3)金属イオンの電荷を打ち消さず沈殿を生成しない、(4)中性配位子であり硝酸溶液への逆抽出が可能である等の特徴を持っています。

TODGAは優れた能力を有していますが、この開発のみに留まらずTODGAを発展させ、第三相生成のような課題を克服し、逆抽出にも利用できる、多岐にわたるDGA化合物の利用に関する研究も着実に進められています。