図7-13 照射後試験におけるき裂発生試験後の試験片の破断面
図7-14 照射下き裂進展試験におけるき裂長さの計測値と試験後の破断面
軽水炉の炉内構造物に多用されているオーステナイト系ステンレス鋼には、高線量の中性子照射を受けると照射誘起応力腐食割れが発生し得ることが知られており、原子力プラントの高経年化対策のためにはその挙動の解明が重要な課題となっています。これまでの照射誘起応力腐食割れ研究では、あらかじめ中性子照射を受けた試料に対してホットセル内の試験装置を用いて炉内環境を模擬した水質条件下での材料試験を実施する方法(照射後試験)が行われてきました。しかし、照射誘起応力腐食割れ現象の適正な評価と対策技術の確立のためには、実際の軽水炉内のような中性子・ガンマ線照射下の高温高圧水環境において、材料特性の変化を定量的に評価することが不可欠です。中性子照射下で応力腐食割れ試験を実施するには、技術的に難しい課題が多いため、これまでハルデン炉等で実施されているのみでしたが、私たちは必要な各種技術を開発し、材料試験炉(JMTR)炉内において国内で初めて照射下応力腐食割れ試験の実施に成功しました。この試験結果は、国の照射誘起応力腐食割れプロジェクトにおける照射後試験データの妥当性評価やガイドラインの整備等へ反映できます。
き裂発生試験では、照射量が約1×1025 n/m2で負荷応力が降伏応力(上記の照射量では約580 MPa)程度の場合に応力腐食割れの発生(粒界割れ及び粒内割れ)が認められました(図7-13)が、照射下において応力腐食割れの発生が著しく加速されるという明確な兆候は見られませんでした。き裂進展試験では、負荷時と除荷時の応力比の変化と試験後の破面の状況はよい相関を示しており、直流電位差法を用いることによって照射下でのき裂長さの変化を測定することができました(図7-14)。き裂進展速度に及ぼす照射の同時作用に関しては、腐食電位(ECP)条件がほぼ同等の照射下試験データと酸素濃度が32 ppmの条件での照射後試験データがほぼ一致することから、これまでに取得されたデータの範囲内では同時作用の影響は小さいと考えられます。
なお本研究は、2000年度から2005年度まで(株)日本原子力発電との共同研究として実施しました。