7-6 日本海の人工放射性核種分布マップを作成

−日本海における放射性核種移行の特徴の解明−

図7-15 核実験フォールアウト起源セシウム137(137Cs)の海水中存在量分布

図7-15 核実験フォールアウト起源セシウム137(137Cs)の海水中存在量分布

表層(約10 m深)から海底上約100 m深までの海水中セシウム137(137Cs)濃度の鉛直分布観測データに基づいて、中層(300 m深)から深層(1,500 m深)までの存在量を計算したものです。日本海盆では表層の放射性核種の中・深層への沈み込みにより中・深層での存在量は大きくなり、大和海盆では日本海盆に比べて中・深層での存在量が小さい傾向が見られます。

図7-16 日本海の3海域(ウラジオストック沖、石川県能登沖、北海道奥尻沖)の水深1km層を通過するアルミニウムの沈降粒子束分布(1m2当たり、1年当たりの粒子沈降量を円柱の高さで表示)と、その供給源(円柱内色分け表示)

図7-16 日本海の3海域(ウラジオストック沖、石川県能登沖、北海道奥尻沖)の水深1 km層を通過するアルミニウムの沈降粒子束分布(1 m2当たり、1年当たりの粒子沈降量を円柱の高さで表示)と、その供給源(円柱内色分け表示)

アルミニウムは、陸起源粒子(鉱物)の主成分金属です。水深1 kmで得られる沈降粒子の全量と粒子中のアルミニウム濃度から、水深1 kmでの陸起源沈降粒子の通過量が分かります。また、粒子中の元素組成から、陸起源粒子を、アジア大陸から主に大気経由で運ばれる黄砂粒子(黄色部分)、対馬暖流に沿って水平的に輸送されると考えられる粒子(赤色部分)、日本列島などの島弧から供給されると考えられる粒子(黒色部分)という3つの供給経路に分類し、それぞれの深海への輸送量を推定できます。

日本海の海水循環及び物質移行のプロセス解明などを目的に、ロシア側排他的経済水域を含む日本海海洋調査を10年間に渡って実施し、日本海の人工放射性核種分布マップを初めて作成すると共に、日本海における放射性核種移行の特徴を解明しました。原子力機構における日本海海洋調査は、1994年と1995年の日韓露共同海洋調査に始まり、これまで実施した18回に及ぶ調査航海により、現時点で調査可能な海域をほぼ網羅することができました。

本調査の結果、(1)日本海の放射性核種濃度の分布には地域及び水深によって差が見られ、北西部では放射性核種が南東部に比べ中・深層まで達しており、中・深層における海水流動により日本海盆から大和堆を迂回して大和海盆へ舌状に浸入する特徴を呈すること(図7-15)、更にこの日本海北西部での放射性核種の中・深層への輸送には、海水の冬期冷却による沈み込みが重要な役割を果たしていること、(2)海水中の沈降粒子を指標とした解析結果から、放射性核種の海底への輸送には、アジア大陸から大気経由で降下した黄砂粒子とともに、東シナ海や日本列島から水平輸送された粒子が寄与していること(図7-16)、(3)日本海の海水及び海底土で検出された人工放射性核種は、核実験フォールアウトに起因するものであり、その濃度は人体に影響のないレベルであること、などが明らかになりました。

上記の結果は、日本海の海水循環や物質移行のプロセス解明に役立つ貴重な情報を提供します。また、放射性廃棄物の海洋投棄の監視や、放射性核種放出事故に対する原子力防災対策実施の際に、それ以前の放射性核種分布状況を知るための重要なデータとなります。