図7-17 DARWINのシステム全体写真(上段)、
及び複合型検出器の概略図(下段)
図7-18 加速器施設において、DARWINを用いて測定した
被ばく線量率及びその測定時におけるビーム電流
現在建設が進められているJ-PARCなどの高エネルギー加速器施設における放射線業務従事者は、加速器の運転に伴い発生する高エネルギー中性子、光子、ミュー粒子等により被ばくする可能性があります。しかし、原子炉施設で使用されている放射線モニタは、高エネルギー放射線に対する感度が低く、被ばく線量を適切に測定することができません。そのため、高エネルギー放射線に対する被ばく線量の測定技術の開発は、加速器施設の放射線管理上、重要で緊急の課題でした。そこで中性子、光子及びミュー粒子を同時に計測できる検出器を開発すると共に、最新のデジタル波形処理技術を応用し、広いエネルギーにわたる線量を同時に測定できる次世代型放射線モニタDARWIN(Dose monitoring system Applicable to various Radiations with WIde energy raNges)を開発しました(図7-17)。
DARWINは、図7-17下段に示した、有機液体シンチレータと6Liを含有するZnS(Ag)シンチレータを組み合わせた複合型検出器により、広いエネルギーの中性子、光子及びミュー粒子を検出します。これらの放射線は、検出器中で様々な核反応を起こし、放射線の種類やエネルギーにより異なるパルス波形の光信号を発生する特性があります。そこでこの光信号を、デジタルオシロスコープと開発した専用プログラムを用いて解析・演算処理することで、それぞれの放射線の被ばく線量を高感度にリアルタイムで測定可能になりました。
DARWINの性能を評価するため、様々な放射線環境においてその特性試験を行いました。例として、米国ロスアラモス中性子科学センターの陽子加速器施設(加速陽子エネルギー800 MeV)において測定した中性子、光子、ミュー粒子による被ばく線量率を、そのときのビーム電流計の出力とともに図7-18に示します。一般に、陽子加速器を運転すると中性子による被ばく線量率が増大することが知られており、この図から、DARWINは、加速器の運転・停止に伴う被ばく線量率の変化を的確に測定できることが分かります。
DARWINは従来の放射線モニタでは実現できなかったひとつのシステムで複数の放射線のモニタリングを実現すると共に、測定エネルギー範囲も既存のシステムと比較して2桁以上広くなり、次世代型の放射線モニタの原型機と言えます。また、DARWINは、高エネルギー加速器施設における放射線モニタリングのみならず、中性子及びガンマ線を高感度に同時計測できる特徴を活かし、マイナーアクチノイド燃料を扱う核燃料サイクルにおける放射線モニタリングへの利用も期待されています。