2-1 地層処分技術の知識基盤の構築に向けて

−知識マネジメントシステムの基本設計−

図2-3 知識マネジメントシステムの基本設計

図2-3 知識マネジメントシステムの基本設計

 

図2-4 論証モデルの例

図2-4 論証モデルの例

 

図2-5 マネジメント機能の基本構成の例

図2-5 マネジメント機能の基本構成の例

 

図2-6 知識ベ ースの基本構成の例

図2-6 知識ベ ースの基本構成の例


私たちは、地層処分の長期的な安全確保と長期間にわたる事業全体に対する信頼を支える上で関連する技術的成果を知識基盤として整備し、常に最新の科学技術の知見等を取り込みながら、次世代へ継承するため、知識マネジメントシステムの開発を行っています。

これまでも、実際の研究開発の場における組織的な取組として、個々の研究者が持っている知識を共有・活用・統合・継承する努力が行われてきましたが、長期にわたって、しかも急激に増加し続ける多様な分野の知識を、様々なステークホルダーが活用できるようにするとともに、次世代に継承するためには、これをシステム化していくことが重要です。このため、私たちは、知識創出・伝達の場となる協働作業を支援する枠組み(知識マネジメントシステム:KMS)の基本概念を提案しました。KMSの基本概念は、構造化した知識を収納する知識ベース、シンクタンクや研究開発セクターなどの知識創造、ユーザーであるステークホルダーとのコミュニケーション、全体をマネジメントするナレッジオフィスなどの機能で構成されます(図2-3)。

2006年度は、このKMSの基本概念を具体化していくために必要な個々の機能の設計、個々の機能の実現に必要な技術・手法の検討など基本設計を行いました。

KMSの基本設計では、「地層処分は長期的に安全である」ことを主張するセーフティケースの内容を、主張の根拠となる種々の「論証」とある論証に対して考えうる「反証」との連鎖で表現する(以下、論証モデル、図2-4に一例を示す)ことにより、知識ベースに格納されている地層処分技術に関する知識が、セーフティケースの構築という観点からどのように利用されているかをユーザーが理解できるようにするとともに、新たに生産すべき知識は何かを明らかにすることができるよう工夫しています。そして、こうした論証モデルによって知識をコンピュータ上で適切に取り扱うためのマネジメント機能(論証支援ツール,知識協働支援ツール,コミュニティ支援ツール)を提示しています(図2-5)。

論証支援ツールには、論証モデルを作成するために必要な論証スキーム(論理構成のパターンを示したもの)、論証に関する仮説生成を支援する機能、論証モデルを表示する機能が含まれます。知識協働支援ツールは新たな知識の生産に関わる原子力機構の専門家の知識協働のためのポータルサイト、コミュニティ支援ツールは実施主体や安全規制機関等の外部の専門家や非専門家とのコミュニケーションのためのポータルサイトを提供します。これらのポータルサイトを介して、実施主体や安全規制機関等のステークホルダーは、論証モデルなどを参照しつつ、セーフティケースの論理構成について議論をし、必要となる知識に関する要望や要求を行うことが可能となります。また、これらの機能を通じて更新された知識は、新たに知識ベースに収納され、論証モデルの更新に反映されます(図2-5)。

知識ベースには、知識の生産を支援するために必要な専門家の経験・ノウハウが、エキスパートシステムとして含まれます。知識ベースの基本構成(図2-6)に示すように、デジタルライブラリ/ストレージサーバーに収納された知識とあわせて、共用ユーティリティを介してエキスパートシステムライブラリを利用することが可能となります。

今後は、KMSの基本設計に基づき、最新の知識工学の技術を活用したインテリジェント化を具体的に進めるために全体構造及び個別機能の詳細化を行い、2010年度を目途にプロトタイプを開発する計画です。