図2-11 大湫盆地の位置と、周辺の地形
図2-12 ゴヨウマツ亜属の花粉化石(写真提供:岡山理科大学 守田益宗准教授)
図2-13 ボーリングコア中の花粉の種類と構成比から推定された古気温変化
高レベル放射性廃棄物の地層処分においては、将来の地形変化が地下水の流れなどへと及ぼす影響を評価する必要があります。気候変動は地形の形成過程を支配する要因の一つで、過去の地形変化と気候変動を同時に復元することにより、将来の地形がどのように変化していくかを予測することが可能になると考えられます。
私たちはこのような研究開発の一環として、岐阜県瑞浪市大湫(おおくて)盆地(図2-11)においてボーリング掘削し地層の試料を採取しました。その中に含まれる樹木の花粉(図2-12)の種類とその量を調べ、中部地方における大昔の気温変化の様子を推定しました。大湫盆地では、約30万年前以降のほぼ連続的な気温変化を復元することができました。
気温復元の結果、約30万年前までは、ブナやハンノキが自生する温暖な気候であり、その後、温暖化と寒冷化が数万年〜10万年間隔で繰り返されたことが分かりました。特に、約15万年前の中部地方は氷河期にあたり、ツガやモミ,トウヒなどが自生する亜寒帯の風景が広がっていたと考えられます。
復元された大湫盆地の過去約30万年間の気温変化は、深海底にたまった堆積物の分析から明らかにされている世界的な気温変化とおおむね一致しており、内陸部にある中部地方においても気温変化は世界的な気温変化に連動していたことが分かりました(図2-13)。
日本の内陸部で30万年間もの長期間にわたってほぼ連続的に気温変化が復元できた例は、これまでほとんど報告されていなかったものです。このような良好な結果が得られたのは、丘陵地の頂上近くに位置し、流れ込む河川がほとんどないという、大湫盆地の特異な地形のおかげです。内陸の盆地に、そのような古気候復元に適した場所があることが今回の研究で初めて明らかになり、今後の古気候の研究に新たな知見を提供することになりました。今後は、この研究で得られた気候変動が、地形変化過程にどのような影響を及ぼすかを明らかにするために、東濃地域を事例として、過去の地形とその変化の様子を復元する調査を行う予定です。