2-7 地表の微小な傾きから地下水の流れを推定する

−地表傾斜データを利用した水理地質構造の推定−

図2-16 傾斜計での観測結果
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図2-16 傾斜計での観測結果

研究坑道の掘削、立坑からの排水停止、立坑からの排水再開(2005年10月〜2006年5月)による地下水の流れの変化に対応して、地表の傾斜方位、傾斜角度が変化しています。円の大きさは傾斜角度を示します。

 

図2-17 地表の傾斜データを用いた逆解析の結果

図2-17 地表の傾斜データを用いた逆解析の結果

研究坑道掘削期間(2005年4月〜2006年4月)の地表の傾斜データを用いた解析結果です。図中の数値は単位岩石体積当たりの地下水体積の変化を示し、D1,D2及びD3は地下水体積の減少領域(寒色系)の中心を、I1,I2は地下水体積の増加領域(暖色系)の中心を示します。

高レベル放射性廃棄物の地層処分技術に関する研究開発では、地下深部における地下水の流れを評価することが重要となります。また、地下に大規模構造物を建設する場合には、環境保全の観点からも地下水の流れを評価しなければなりません。

地下水の流れを評価するためには、岩盤の透水性(水のとおりやすさなど)や間隙水圧(岩盤中の地下水の水圧)の分布を調べるとともに、透水性が異なるような地下水の流れを支配する構造(水理地質構造)の分布を推定する必要があります。一般的には、地下水の流れを評価するために必要な情報は、ボーリング孔を用いた調査や観測によって取得されます。しかしながら、深度数100m規模のボーリング孔を用いた調査や観測を数多く行うことは多大な時間や費用を必要とすることから、ボーリング孔での調査、観測から得られる情報を補完する簡便な方法の開発も重要な課題となっています。

私たちは、地表からの観測によってボーリング孔で得られる情報を補完する手法の一つとして、地表でのわずかな傾斜の変化から地下深部の地下水の流れに影響を与える大規模な水理地質構造を推定する手法の開発を東北大学との共同研究で実施しています。

本研究では、ボーリング孔での試験や大規模構造物の建設に伴う湧水などによる地下深部の地下水の移動によって生じると考えられる地表の微小な傾斜の変化から、地下深部の地下水の体積の変化を推定するための逆解析手法の開発・改良を行い、実際に取得されたデータを用いて水理地質構造を推定することにより、手法の有効性の確認を行っています。

瑞浪超深地層研究所では、ナノラジアン(10−9radian)オーダーの分解能を持つ傾斜計を研究所用地内の4箇所に設置し、地表での傾斜観測を行っています。観測の結果、研究坑道の掘削や掘削に伴う地下水の流れの変化により、地表付近の傾斜が変化することが分かりました(図2-16)。

研究坑道掘削時における地表での傾斜変化データを用いて、地下160mでの地下水の体積変化を推定した結果、地下水体積の減少領域は、立坑付近を中心に北北西−南南東方向に広がっていると推定されました(図2-17)。

推定された地下水の体積減少領域は、これまでの調査・観測で推定されている遮水性の断層(断層を横切る方向に対して地下水が流れにくい特性を持つ断層)に挟まれた領域とおおむね一致しています。このことから、研究坑道の掘削に伴う立坑の湧水が、二つの遮水性断層に挟まれた領域から選択的に地下水が流入することによって供給され、その結果として、地下水体積の減少が生じていることが示唆されました。この結果はこれまでの調査・観測結果と整合的であることから、本研究により開発した手法は、地下水の流れに大きな影響を与える水理地質構造を推定する有効な手法の一つであることが確認できました。