図2-21
図2-22
我が国では、使用済燃料の再処理に伴って発生する高レベル放射性廃棄物を、300mより深い地層中に処分することを基本方針としています。このような地層処分を行うためには、地下深部に大規模な処分施設を建設することが必要となります。地下施設の建設は、施設内への湧水による周辺の水理場や水質の変化、坑道の掘削による大気との接触による岩盤の酸化、トンネル掘削による岩盤の緩みなどを生じ、地下深部の地質環境を変化させると予想されます。
本研究では、地下施設の建設前の地表から地下深部にかけての地下水の水質分布を推定するための技術を構築しました。地表から地下深部までの水質分布を推定するために必要な水質データとして、幌延深地層研究計画では、河川水と雨水の分析を行い、表層の水質とボーリング調査中に採取した地下水や間隙水などの化学分析による地下水の水質を把握しました。これらのデータに対して、統計処理を行い、地下水の三次元的な水質分布を推定する技術を構築しています。
地表から地下深部の地下水の水質を把握するために、直径約15cmのボーリング孔を掘削し、地下水を採水(図2-21(a))したり、掘削により得られたコアから間隙水を抽出(図2-21(b))したりして、地下水の水質分析を行いました。ボーリング調査では、地下水とは異なる水質のものを掘削水として使用するため、本来の地下水の水質を変化させる可能性があります。そこで、ボーリング調査中に使用する掘削水には、蛍光染料を既知濃度で添加しながら掘削を実施し、蛍光染料の濃度が十分低下した後に採水を行いました。
このようにして取得された地下水の水質データとして、11本のボーリング孔から地下水試料18試料,間隙水試料約170試料を取得しました。次に、調査により取得したこれらのデータに対して、空間統計的な処理を行い地下水の水質の三次元分布を推定しました(図2-22)。その結果、地下水の水質分布は、深度方向では淡水系(Na-HCO3型)から塩水系(Na-Cl型)の地下水へ変化し、東西方向については淡水と塩水の境界深度が異なることが分かりました。今後は、水質分布の形成過程について検討を行うとともに、地下施設の建設に伴い生じる周辺の地下水の水質の変化を通じて地下水の地球化学モデルの妥当性を検討する計画です。