図5-4 NSRR実験で破損した高燃焼度PWR燃料被覆管
図5-5 水素化物リムを設けた未照射燃料棒の破損形態
図5-6 水素化物リム厚さと破損時燃料エンタルピーの関係
ウラン資源の有効利用及び燃料サイクルコストの低減を目指し、軽水炉燃料をより長期間使用するための努力、いわゆる高燃焼度化が世界各国で推進されています。しかし、燃焼とともに被覆管の腐食や燃料ペレット内での核分裂生成物の蓄積が進むため、高燃焼度化に当たっては通常の運転条件に加え、事故条件での安全性についても十分に検討する必要があります。そこで原子炉安全性研究炉(NSRR:Nuclear Safety Research Reactor)では、反応度事故(RIA)を模擬した出力急昇実験を、発電所で高い燃焼度に達した燃料を対象として実施し、燃料の挙動や破損メカニズムの解明を行っています。図5-4はNSRR実験で破損した高燃焼度PWR燃料の被覆管断面を破断部について拡大した写真です。長期間冷却水と接触したため被覆管外面には酸化膜が形成されています。酸化膜より内側には黒っぽい析出物が多く見られ、これは酸化に伴い生じた水素が被覆管に吸収され、固溶限界を超えたために析出したものです。この水素化物の析出が顕著な層は水素化物リムと呼ばれており、酸化膜ほど脆くはありませんが、通常の部位より延性が低下しています。
従来の研究により、被覆管の酸化膜が厚いほど破損に至る燃料エンタルピーが低い(つまり破損しやすい)という傾向が得られていました。しかし本研究では、力学的な効果は酸化膜よりもむしろ水素化物リムによると考え、被覆管に意図的に水素化物リムを設けた燃料棒でNSRR実験を行いました。実験前後の被覆管断面を図5-5に示します。軽水炉で照射していないので酸化膜はありませんが、高燃焼度燃料とよく似た破損が生じました。破断部以外の場所でき裂が生じている点も共通です。図5-6に水素化物リムの厚さと破損時燃料エンタルピーの関係を示しますが、高燃焼度燃料実験の結果と傾向が良く一致しています。また、水素化物リム厚さの平方根に逆比例する傾向が見られますが、これは、リム厚さに等しい深さを持つき裂について先端における応力拡大係数を考慮すると合理的に説明できます。つまり、燃料破損は、被覆管外面付近の水素化物リムに生じたき裂を起点として、き裂先端の応力集中により生じたと解釈されます。
本研究の成果により、反応度事故に対する安全評価手法が更に高度化されることが期待されます。