図10-3 超高純度ステンレス鋼の複合溶製法
図10-4 従来材と超高純度材の沸騰硝酸中での腐食試験結果
地球温暖化やエネルギー資源確保の対策として原子力が再度脚光を浴びてきており、原子力産業においては国際的競争の下、高性能の次世代原子力システムの開発が不可避となってきています。次世代原子力システムに対応した再処理技術では、大幅な高燃焼度化や高速炉用燃料に対応するため、現在の再処理プラントの材料よりも、更に厳しい沸騰硝酸下で耐食性を高めた再処理機器用材料の開発が必要となります。
再処理プラント用ステンレス鋼の寿命決定の主要因である粒界腐食は、介在物や結晶粒界を起点として発生する局部腐食です。結晶粒界は、熱力学的安定性が低く、製造工程中にC,P,S,Oなどの有害不純物が集まり、結晶粒界での耐食性が低下します。私たちは、材料特性を害する不純物を実用レベルの極限まで取り除く超高純度(EHP:Extra High Purity)化により、材料本来の耐食性が発現できると考え、基礎研究を実施してきました。しかし、実用化には低廉化と品質保証が担保できる商用溶製技術が必要となります。そのために株式会社神戸製鋼所と連携してEHP合金の複合溶製法の開発と材料特性評価を実施しています。新溶製技術は、図10-3に示すように前段のコールドクルーシブル磁気誘導溶解(CCIM)-Caハライド還元精錬法で低品位原料中の非揮発性不純物を除去し、後段のコールドハース電子ビーム溶解(EB-CHR)法で残留する揮発性不純物を除去します。更に、水冷銅矩形鋳型で連続凝固させて、矩形断面の中間製品を直接生成することができます。数100kgの試験溶製においては、原子力級のスクラップを使用しても有害不純物量を100ppm以下に低減でき、EHP合金の商用溶製の目処が得られています。
図10-4は、再処理硝酸環境を模擬した沸騰硝酸中での腐食試験の結果です。試験片は従来材SUS310ULCとSUS310EHP合金です。SUS310ULCの腐食試験後の表面観察では粒界腐食が認められ、粒界腐食により腐食速度が大きく加速されます。一方、SUS310 EHP合金では腐食速度はほぼ一定で、優れた耐粒界腐食性を示し、EHP化の有効性が確認できます。また、EHP化は溶接割れ抵抗性も同時に改善でき、従来の元素添加により耐食性を犠牲にし、溶接割れ抵抗性を向上させた溶接材に代わり、母材を溶接材として用いる共材溶接を可能にします。
本研究は、文部科学省からの受託研究「次世代再処理機器用耐硝酸性材料技術の研究開発」の成果の一部です。