図12-1 原子力分野における計算科学の役割
原子力のさらなる安全・安心のため、「理論」や「実験」に加えて原子力施設全体規模での安全性確認や経年変化などを理解し予測する技術として、計算科学による研究開発を進めています。計算科学は「理論」「実験」に次いで第三の研究開発手法として認識され、地球規模の温暖化予測など新たな展開が行われており、原子力分野においても、さらなる発展が期待されています。
私たちは図12-1に模式的に示したように「原子力分野における計算科学研究を先導し原子力機構内外との連携研究を推進するための計算科学基盤技術研究開発」「高精度な現象予測を行うための先端的シミュレーション技術研究開発」「原子力機構内における情報セキュリティの確保による活発な研究支援を行うための運用・保守」を三位一体で推進しています。また、研究開発の成果として生まれ、確立した技術を基に原子力機構内外における理論・実験研究との連携を強化し、原子力研究の各分野の高度化・効率化に努めています。
現在、計算科学分野における国内の研究開発を牽引し、革新的な原子力研究を進めるため、中期計画課題として「グリッド技術による並列分散計算技術」「原子力施設の耐震性評価用仮想振動台の構築」「原子炉材料のき裂進展,核燃料の細粒化現象の機構解明」「原子力分野におけるナノデバイスの開発」「ミクロからマクロに至る計算手法を統合したマルチスケーリングモデル手法の構築」「ITを活用したゲノム情報解析用データベースの構築」「DNA修復タンパク質の機能の解明」に継続的に取り組み、シミュレーションの高度化、未知現象のシミュレーションによる再現と観察などを行っております。
私たちは、国家プロジェクトへも積極的に参画しており、e-Japan重点計画の下、2001年度から五か年計画で実施された「ITBL(Information Technology Based Laboratory)」プロジェクトでは、複数の計算機を連携させることにより、あたかも一台の大型計算機のように利用可能としました。この仮想大型計算機は2008年5月時点で60TFLOPS(17計算機から構成)の計算処理能力を有し、64機関の11研究コミュニティに対して継続的な学術研究支援を行っております。その後も2006年度からは二か年計画で「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」に参画するなど、原子力分野で培われてきた計算科学技術を活かした貢献を行っております。
また、計算科学による原子力研究の世界最先端の活動と協調するために、米国(2機関),独国(3機関),仏国(5機関)と国際協力を推進しております。日米間の国際原子力エネルギー・パートナーシップ(Global Nuclear Energy Partnership:GNEP)においても、シミュレーションとモデリングの研究開発が取り上げられ、これに協力しています。
私たちは、計算科学技術を核とした原子力分野の研究開発を、今後も一層加速させていきます。