12-1 計算機上での原子力施設モデル化と構造健全性評価

−原子力発電プラントの振動挙動を推測するための3次元仮想振動台−

図12-2 有限要素法による組立構造解析法の階層化

図12-2 有限要素法による組立構造解析法の階層化

従来の有限要素法による解析では、解析対象を一体構造物として扱うため、その解析対象のデータ容量に限界があります。本手法では、解析対象を部品化し、データ容量の影響を少なくする手段を提案しています。本図では全体を二つの系に分けて、解析の規模を低減しています。ここでは、機器系と配管系を分けて扱い、そのデータを連携させることでゆれを計算することを提案しました。

 

図12-3 階層化による原子力発電プラント全体の振動解析

図12-3 階層化による原子力発電プラント全体の振動解析

最初にレベル1の三つの機器系(機器系1,2,3)の応答を計算し、その応答を境界条件としてレベル2の二つの配管系(配管系1,2)に与えることで、プラント全体規模の振動解析を実現しました。

原子力施設の地震時の構造健全性を評価するためには、多数の部品から構成される原子力施設全体を扱う必要があります。従来は経験や知識を元に原子力施設を構成する機器や建屋を個別に比較的簡易なモデルで表現し、設計や評価を行っていました。しかしながら、昨今の大規模地震の頻繁な発生に伴い国民の地震に対する関心が殊に高まっており、原子力施設の構造健全性をより詳細に示す必要性が増してきています。

そのような中、私たちは、原子力施設の構造健全性評価のための詳細解析技術の一つとして、高度計算科学技術を用いてスーパーコンピュータ上に仮想振動台を構築し、原子力施設全体の地震時の応答をシミュレーションする技術の研究開発を進めています。阪神淡路を始めとする近年の大地震において、様々な構造物で従来の部品解析技術では理解が困難な機器や部品間の相互作用に起因する局所的変形などの物理現象が散見されています。仮想振動台では、このような問題を解析できるように、構造物をあるがままモデル化し、機器や建屋間の相互作用を考慮した詳細な解析の実現を試みています。これまでに、1,000万点を超える部品から構成される原子力発電施設を部品ごとにデータ処理する手法(組立構造解析法)と、異なる複数のスーパーコンピュータを連携処理させて一台の計算機では処理しきれない解析を処理する手段を提案し、仮想振動台の要素技術を研究開発してきました。ここで組立構造解析法は、実際に部品を組み立てて製作される組立構造物と同様に、部品ごとにモデル化し組み合わせることが特徴であり、膨大なデータ作成の課題解決への貢献が期待されます。これらの要素技術を組み合わせて仮想振動台のプロトタイプを開発し、原子力機構大洗研究開発センターにある高温工学試験研究炉(HTTR)の主要設備の構造解析を実験的に始め、現在までに静解析の動作確認を行いました。

一方、原子力施設全体の振動解析を実現するためには、膨大な部品の逐次変化を加味した繰り返し計算を実施する必要があります。従来の解析手法では規模と時間の両面で実現が困難とされてきました。そこで、同時に処理する規模の低減と処理の高速化を図るために、これまでに提案した組立構造解析法を階層化することを提案しました。階層化では、組立構造物の組立構成を意識して、例えば機能構造単位に分類して計算処理を分散させます。この例では図12-2に示すように、原子力発電プラントの機器系と配管系を大きく二つに分類し、これを階層化して解析しました。

このように入力データを階層化することにより、図12-3に示すように合計で約1.8億自由度を有する構造物の計算負荷を最適に複数のスーパーコンピュータへ分散配分することが可能になりました。その結果、仮想振動台のプロトタイプシステム上で、HTTRのプラント全体を対象とした振動解析に成功しました。本解析では、同時に処理する規模が従来の1/3以下に低減され、従来の約10倍の処理の高速化を実現できました。これにより、10億自由度超といわれる原子力施設全体規模の詳細な振動解析の実現可能性が大きく拡がりました。