1-1 冷却系配管の短縮による経済性向上を実現

−高温強度,靭性及び組織安定性に優れたFBR構造用高クロム鋼の開発−

図1-2 高クロム鋼採用による配管短縮

図1-2 高クロム鋼採用による配管短縮

 

図1-3 高クロム鋼及びステンレス鋼の材料特性

図1-3 高クロム鋼及びステンレス鋼の材料特性

FBR構造材料には、高強度,低熱膨張,高熱伝導率が要求されます。 12Cr鋼は、SUS316と同等の引張強さを有し、熱的特性は改良9Cr-1Mo鋼よりも優れるためFBR構造材料として高いポテンシャルを有します。

 

図1-4 V,Nb成分調整材のクリープ試験結果

図1-4 V,Nb成分調整材のクリープ試験結果

V,Nb添加量を調整した高Cr鋼のクリープ試験結果(直線の傾き)から、V単独添加材の長時間安定性が優れていることが明らかとなりました。

高温強度と熱的特性に優れる高クロム(Cr)鋼を主要構造材料として採用することにより、配管の短縮化・物量削減を図り、設計自由度や経済性を向上させることを検討しています(図1-2)。実証炉構造材料には、既存高Cr鋼の中でも、長時間安定性に優れ、火力発電などで実績のある改良9Cr-1Mo鋼を採用することを検討していますが、実用炉に向けては、さらなる設計自由度や経済性の向上のために、改良9Cr-1Mo鋼より優れた材料特性を有する高Cr鋼の開発を進めています。既存高Cr鋼の中には、12Cr鋼のように、改良9Cr-1Mo鋼よりも優れた材料特性を有する材料もあります(図1-3)。しかし、それらは600℃以上の温度域における10万時間クリープ強度を一つの指標に開発された火力発電用の材料であり、最高使用温度が550℃と火力発電での使用温度より低いのですが、設計寿命60年(約50万時間)のFBR構造材料にそのまま適用することはできません。また、FBR構造材料は、クリープ疲労強度や靭性などの材料特性も要求され、それら材料特性をプラントの寿命末期まで安定に保つ必要があることから、添加元素や熱処理条件などを最適化することによって、高温強度,靭性及び組織安定性の向上を図ることが必要です。

高Cr鋼の高温強度は、多くの元素を添加することで得られる種々の強化機構により達成されていますが、それらの強化機構のFBR温度域における長時間有効性・安定性は、十分に明らかにされているとは言えません。そこで私たちは、FBR構造用高Cr鋼の開発に向け、析出強化機構のFBR環境における長時間安定性・有効性を評価しました。

高Cr鋼における析出強化は、バナジウム(V)とニオブ(Nb)の微細な炭窒化物(以下、VX及びNbX,XはC,N。総じてMX)の析出によるものが主要です。そのため、V,Nb添加量を調整した高Cr鋼に対してクリープ試験,熱時効試験を実施し、更にクリープ及び熱時効材に対するMXを中心とした微細析出物の電子顕微鏡観察などから、FBR使用環境における析出強化の長時間安定性・有効性について検討を行いました。その結果、図1-4に示すように、V,Nb添加量によりクリープ強度が変化し、長時間安定性も異なることが明らかとなりました。また、電子顕微鏡によるミクロ組織観察から、長時間安定性の高いV単独添加材では、クリープや熱時効に伴う組織変化が少なく、VXが安定であることを確認しました。この結果から、V,Nb添加量を調整することにより、長時間安定性を高められること、それにはV添加が有効であることが明らかとなりました。この試験結果は、今後のFBR構造用高Cr鋼開発の方向性を示すものです。