2-7 地下からの水素ガス濃度に基づき断層活動の特徴を探る

−携帯型水素ガス検知器の開発と適用事例−

図2-12 断層破砕帯での水素ガス濃度測定の様子(a)と測定の流れ(b)
図2-12 断層破砕帯での水素ガス濃度測定の様子(a)と測定の流れ(b)

測定装置は小さくて軽いため、大掛かりな作業の必要なく容易に測定が可能です(a)。 ドリルで掘削した孔に測定装置につながったテフロンチューブを差し込み、1箇所での測定時間は3〜4時間程度です(b)。

 

図2-13 山崎断層周辺における水素ガス濃度分布
拡大図(331KB)

図2-13 山崎断層周辺における水素ガス濃度分布

測定開始から2〜3時間後にかけての水素ガス濃度の合計(1時間の積算値)が10ppm未満は○印、10ppm以上は●印

断層活動が周辺の岩盤へ及ぼす影響を明らかにするための研究は、高レベル放射性廃棄物の地層処分技術の信頼性の向上に貢献します。断層沿いの岩盤が破砕された領域(破砕帯)は、周囲よりも透水性が高くなる傾向にあり、その分布や特徴を明らかにすることは、断層周辺の長期的な地下水流動の変化を把握する上で重要なことです。私たちはこのような研究開発の一環として、割れ目や破砕帯から放出される水素ガスを利用した調査手法の適用性を検討しています。

活断層直上におけるガス観測により、大気濃度(約0.5ppm)を大幅に超える水素ガスが、地下から放出されていることが過去に報告されています。室内実験などによる検討からは、これらの水素ガスは、地震の震源が分布する地下深部での岩石の破壊に伴って水素ガスが生成されることに起因し、その水素ガスは地下水などとともに割れ目の多い部分を移動して地表に達することが指摘されています。したがって、活断層周辺における水素ガス濃度の分布を広域的に調査することで、割れ目や破砕帯の連続性,地下水の移行経路の存在など、断層周辺の水理学的特徴の把握につながる情報を得ることが期待されます。

我が国に分布する活断層の多くは、数100万年以上に及ぶ長い活動の歴史を有することが知られており、その周辺には活動時期の異なる様々な特徴の割れ目や破砕帯が分布しており、そこでの水理特性についても異なることが推定されます。活断層周辺に発達する地下深部から地表に続く地下水経路の存在など水理学的特徴を把握するためには、広域的な水素ガスの濃度分布をとらえる必要があり、多くの地点での水素ガス濃度を測定しなければなりません。しかし、従来の水素ガス測定は、測定装置が大掛かりで、地下から継続的に放出される水素ガスの濃度を正確に把握するために1日以上の時間が必要でした。そこで私たちは、携帯型の水素ガス検知器を利用した新たな測定方法を考案し(図2-12)、短期間に多くの地点の測定が可能となりました。

図2-13は、兵庫県に分布する山崎断層周辺における水素ガス濃度分布調査の例です。山崎断層は868年の播磨国地震の時に活動した活断層です。調査結果からは、高濃度水素ガスの放出が継続して確認できた地点は活断層沿いと微小地震の密集している南東部に、高濃度水素ガスの顕著な放出が認められない地点は活断層から離れた地域と活断層の北西部に偏在していることが分かりました。

今後は、この研究で得られた知見を踏まえ、断層やその周辺の破砕帯においての測定事例を増やし、水素ガス濃度分布と、断層や破砕帯を含む地質構造の分布・性状との関係の検討から、断層周辺での地下深部から地表へ続く地下水流動経路の存在やその分布についての基礎情報を得ていく調査を行う予定です。


●参考文献
Shimada, K., Tanaka, H., Saito, T., Rapid and Simple Measurement of H2 Emission from Active Faults Using Compact Sampling Equipments, Resource Geology, vol.58, no.2, 2008, p.196-202.