5-2 プルサーマル用MOX燃料のふるまいを計算で追う

−FEMAXI-6コードによるHalden MOX燃料照射データの解析−

図5-4 燃焼が進む燃料棒の中で起こる様々な現象

図5-4 燃焼が進む燃料棒の中で起こる様々な現象

FEMAXI-6コードでは上のような1本の燃料棒が計算の対象です。燃料棒の中ではペレットの膨れやFPガス蓄積、それに続くギャップへの放出などが起こり、これらが複雑に影響し合っています。ペレットの膨れは主に固体のFPが蓄積することで起きますが、FPガスの粒界での蓄積が膨れを促進する可能性も指摘されています。

 

図5-5 測定値とFEMAXI-6による計算値の比較

図5-5 測定値とFEMAXI-6による計算値の比較

(a)ペレット中心温度計算値は、特にガス膨張の影響を考慮したケースで測定値と良く一致し、ガスの蓄積がペレットの膨れを促進した可能性を示しています。
(b)内圧計算値は後半の急激な上昇を十分に再現できておらず、FPガスふるまいの計算には改良の余地があります。

原子炉では燃料中のウランやプルトニウムが核分裂を起こし、エネルギーを発生(燃焼)しています。燃焼が進む燃料棒の中では様々な現象が起こり、互いに影響し合うので(図5-4)、燃料がどうふるまうかを予測するには計算コードの助けが必要です。私たちは燃焼が進んだ(高燃焼度)燃料のふるまいを知り、安全性の確認に役立てるため、高燃焼度燃料ふるまいコードFEMAXI-6を開発してきました。現在、ウラン-プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を軽水炉で利用する「プルサーマル」の準備が進んでいます。私たちは、MOX燃料のふるまいを、高い燃焼度までより正確に予測するため、FEMAXI-6コードを改良しました。

まずMOX燃料ペレットの温度を正しく計算するため、MOXペレットに適した熱的,機械的モデルを新たに組み入れました。ペレット温度は、燃料のふるまい全体に強く影響する最も重要な要素です。次に重要な要素は、燃焼に伴い蓄積するFPガスの影響です。FPガスはペレットの結晶粒界あるいは結晶粒内に蓄積し、このうち粒界FPガスがペレットの膨れを促進する可能性があります。そこで、FPガスの直接的な影響はないと考える従来モデルに加え、膨れ促進の効果を考慮したガス膨張モデルを使えるよう改良しました。以上の改良を施したFEMAXI-6コードを用いて、Halden炉(ノルウェー)のMOX燃料照射データを対象とした計算を行い、測定値をどれだけ再現できるか調べました。

図5-5(a)は燃料ペレット中心温度の照射中の変化です。計算は測定結果を良く再現しており、燃焼の後半では特にガス膨張モデルが測定値と良く一致します。このモデルではペレット膨張が促進され、従来モデルに比べペレットが被覆管に接触しやすくなります。接触が起こると熱が伝わりやすくなり、ペレット温度は下がります。測定値との比較から、燃焼の後半にFPガスが粒界に蓄積し、ペレットの膨れを促進した可能性が大きいと考えられます。

図5-5(b)は燃料棒内圧の変化です。燃焼後半の急激な上昇は、大量のFPガスがペレットからギャップに放出されたことを示しています。粒界FPガスは放出されやすいので、やはりFPガスが粒界に多く蓄積していたと考えられます。計算は測定結果と似た傾向を示すものの、十分には再現できていません。粒界へのガス蓄積を正確に計算できていないことが主な原因と考えられます。燃焼度が更に高くなると、このような測定値からのずれがペレット温度の計算に影響することも考えられるので、FPガスふるまいの計算には改良の余地があります。

今回の改良で、MOX燃料の温度をより正確に予測できるようになりました。また現在、粒界へのFPガス蓄積を正確に計算できる、新しいモデルの開発を進めています。FEMAXI-6コードは誰でも使えるようにソースコードを無償で公開しており、国内外で研究や安全評価に利用されています。2008年度末にはFEMAXI-6コードの改良版が公開予定で、下記サイトからダウンロードが可能になります。(http://www.rist.or.jp/nucis/