図5-1 安全研究の主な課題と役割
原子力施設の安全を確保するため、国は事業者による施設の安全設計及び安全管理について安全審査や検査を行っていますが、安全研究は、その判断根拠となる指針・基準類の策定に対して最新の科学技術的知見を提供するために不可欠です。
そのような原子力安全規制を支えるための安全研究について、原子力安全委員会は、今後の規制の動向を踏まえ重点的に実施すべき安全研究を定めた「原子力の重点安全研究計画」を2004年7月に決定し、2007年にはその成果の中間評価を行いました。この中で原子力機構は、主に図5-1に示すような重点安全研究課題の実施が期待されています。
こうした安全研究の成果を原子力安全規制に反映させることにより、原子力施設の安全性の維持・向上に貢献するとともに、国民の原子力に対する信頼の醸成に役立つと考えています。
また、規制機関である原子力安全・保安院及び独立行政法人原子力安全基盤機構から安全規制上の課題に対応するための調査・研究を多数受託し、これら機関の活動を支援しています。
私たちは「原子力の重点安全研究計画」及び規制行政庁などの委託に基づいて安全研究を着実に進め、広範な分野において成果を上げています。図5-1に沿って現状及び最近の成果の概要を述べます。
「リスク情報の規制への活用手法検討」に関する研究では、核燃料サイクル施設を対象とする確率論的安全評価(PSA)手法の開発・整備とその活用方法の検討を進めています。また、防災に関する研究では、防護対策のより一層の向上に資するため、PSAや環境影響評価などの手法を活用して、緊急時における判断や各種防災対策の指標,範囲,実施時期などの技術的課題の検討を行っています。「事故故障の分析」では、実際に発生した事例を分析し教訓を引き出す研究を継続的に実施しています。加圧水型原子炉(PWR)における応力腐食割れの発生事例を多数分析して、応力腐食割れの早期発見や対策の検討に役立つ情報を得ました(トピックス5-1)。
「燃料の高燃焼度化に係る安全評価」に関する研究では、通常運転時の燃料挙動解析コードFEMAXI-6を「プルサーマル」利用に対応できるよう改良し、実験と比較する(トピックス5-2)とともに、原子炉安全性研究炉(NSRR)における反応度事故模擬実験により、高燃焼度燃料での燃料ペレットからの核分裂生成物(FP)ガスの放出挙動を明らかにしました(トピックス5-3)。
「軽水炉利用の高度化に係る安全評価」に関する研究では、OECD/NEAとの国際協力により、PWRを模擬した大型非定常試験装置(LSTF)による実験計画を進め、事故時の状態把握や解析コードの検証に役立つデータを取得する(トピックス5-4)とともに、燃料集合体を模擬した流路内の冷却水の沸騰挙動を精密に測定する実験技術を開発し、反応度事故解析コードの検証用データを取得しました(トピックス5-5)。
「高経年化機器・材料の健全性評価」に関する研究では、原子炉圧力容器鋼材が中性子照射により脆化する機構(特に粒界脆化)に関するデータを取得し、懸念されたリン不純物の影響が十分高い照射量まで小さいことを確認しました(トピックス5-6)。
「核燃料サイクル施設の安全評価」に関する研究では、使用済燃料貯蔵施設の臨界安全評価において、使用済燃料では新燃料に比べて臨界になりにくい効果(燃焼度クレジット)に関する実験データを取得し、計算コードの検証を行いました(トピックス5-7)。
「放射性廃棄物処分・廃止措置の安全評価」に関する研究では、超ウラン元素(TRU)廃棄物のトレンチ処分,ピット処分及び余裕深度処分に対するそれぞれの放射能濃度基準値を定めるための評価手法を開発し、試算値を示すことにより、原子力安全委員会の報告書や経済産業省の省令の作成に貢献しました(トピックス5-8)。また、高レベル放射性廃棄物を地層処分する際にガラス固化体を封入したオーバーパック(厚い鉄の容器)を覆うベントナイト系緩衝材について、長期の性能変化を予測する手法を開発しました(トピックス5-9)。