図5-8 原子炉頂部小破断LOCA実験での炉心出口温度検出
図5-9 CETが検出した蒸気の過熱(a)は、炉心燃料棒の温度(b)の過熱開始より遅れて発生し、かつ低い過熱度を示しました。
図5-10 二つの高出力燃料集合体での蒸気温度比較
私たちは、LSTF実験を通じた国際共同研究により、軽水炉の安全向上を図るOECD/NEA ROSAプロジェクトを2005年に開始し、苛酷事故防止や解析コード高度化などの課題に14か国で取り組んでいます。その一つとして、PWR容器頂部小破断によるLOCA模擬実験(図5-8)を実施し、苛酷事故防止に用いる原子炉計装の特性を調べました。特に、破断口から冷却材が流出し続けて炉心が空だき状態になった時、その過熱を検知する上で最も信頼できると期待されている炉心出口温度計(CET)の特性を、実験で詳しく調べました。
炉心が過熱すると過熱蒸気は上方の出口に向かいましたが、最も早いCETの過熱検出は炉心の過熱開始より約70秒遅れ、運転員が減圧を開始する条件(623K)までには更に160秒かかりました。またCETの最大過熱度も、炉心最高温度点の過熱度よりずいぶん小さいものでした(図5-9)。私たちは二つの原因を考えました。一つは、破断位置が異なるほかのLOCA模擬実験でも、CETの昇温開始の遅れは共通して生じており、燃料棒上部の低温領域や炉心の出口付近と外周部の非加熱構造材による冷却効果が遅れの原因と考えられます。第二はこの実験特有の現象として、図5-8のように、炉心の高温蒸気が破断口につながる制御棒案内管(CRGT)下部入口へ集中し、三次元的な蒸気流れが生じたことです。実験では、出口付近にCRGTが設置された高出力燃料集合体(B20)では高温蒸気が上昇しましたが、CRGTのない燃料集合体(B15)では高温蒸気が近接のCRGTに向かって横向きに流れ、外周から低温の蒸気が流れ込んだと判断される結果を得ました(図5-10)。LSTFではCRGTの外側にCETを設置しており、蒸気の過熱検出が遅れる要因となりました。
私たちはこのような現象が実機でも生じうることを示すとともに、事故の兆候をより早く検知する代替指標(水位計3種、図5-8のL)の有用性を指摘しました。OECD/NEAはこれらの情報を参考に、新たなタスクグループを設立して調査・検討を始めました。この成果は、ROSAプロジェクト運営委員会の開示承認に基づく知的財産情報を含みます。