5-7 使用済燃料が新燃料に比べて臨界になりにくいことを利用する

−燃焼度クレジット解析手法の検証用データの取得−

図5-15 燃料棒と溶液燃料で構成した非均質体系

図5-15 燃料棒と溶液燃料で構成した非均質体系

333本のウラン酸化物燃料棒が1.5cm間隔で円筒形の炉心タンクの中に配列されています。底から硝酸ウラニル水溶液の溶液燃料を給液し、臨界となる液位を測定します。

 

図5-16 FP元素の追加と臨界量の増加

図5-16 FP元素の追加と臨界量の増加

ウラン溶液燃料にSm,Cs,Rhの硝酸水溶液を順次追加すると、中性子の吸収量が増え、臨界液位が増えます。同様にEuも追加しましたが、溶液燃料全体の体積が増えてSmなどの濃度が下がった効果がEuの濃度増加の効果よりも大きく、臨界液位は減りました。

原子炉では核分裂連鎖反応により燃料の核的な燃焼が進み、ウランなどの核分裂性物質が減り、FPが蓄積します。これらの変化はいずれも連鎖反応を維持するためには不利であり、使用済燃料は新燃料に比べて臨界になりにくい性質を持ちます。この性質を定量的に把握して利用することを「燃焼度クレジットを導入する」と呼び、その結果、輸送,貯蔵,再処理などでは、臨界事故を防止しつつ、より多くの使用済燃料を取り扱えるようになります。

現在までに我が国では、核分裂性物質の減少だけを考慮して燃焼度クレジットを導入した例がありますが、FPの蓄積を考慮した例はありません。FPの蓄積の効果を定量的に把握するためには、使用済燃料中のFPの量と、そのFPが臨界にどれだけ負の効果を与えるかを、正確に予想できなければなりません。

このうちFPが臨界に与える負の効果について、原子力科学研究所の定常臨界実験装置(STACY)を用いて、精密な測定を行いました。燃焼度クレジットを導入するメリットが大きい再処理施設の溶解工程を模擬して、ウラン燃料棒(235U 5wt%)を配列した炉心タンクに底のノズルからウラン溶液燃料(235U 6wt%)を供給し(図5-15)、臨界となる溶液量を測定しました。溶液には、ウラン1t当たり30GWdayの積算出力を得た場合の蓄積濃度に相当するサマリウム(Sm),セシウム(Cs),ロジウム(Rh)及びユーロピウム(Eu)の各天然元素を順次加えたところ、臨界になりにくくなる、つまり臨界量が増える様子が図5-16のとおり得られました。

臨界に与える効果は、中性子実効増倍率keff(連鎖反応を媒介する中性子の量の変化率であり、臨界の状態では1.0)の変化で表します。各元素の単位濃度当たりの効果を測定結果に基づいて算出したところ、Smは−3293±40¢/(g/L),Csは−26.5±1.4¢/(g/L)などの結果が得られました(「¢」は中性子実効増倍率の変化の単位でこの実験の場合は7.6×10−5)。

SRACコードで核データライブラリーJENDL-3.3による多群断面積を生成し、TWODANTコードでkeffを算出しました。この結果に基づいて各元素の効果を求めたところ、Euは測定と良く一致しましたが、Sm,Cs及びRhは測定よりも若干大きい結果になりました。測定の精度を考慮すればSmの結果にのみ有意な差があると考えられますが、計算だけに頼ると現実以上に負の効果があると結論することになり注意が必要です。

最近では、MCNPやMVPのようなモンテカルロコードでも摂動法により反応度効果が算出できるので、この実験結果を用いて検証を行う予定です。また、使用済燃料中のFPの量を実際に測定する照射後試験(PIE)についても、今後一層の精度改善が必要になります。

本研究は、文部科学省からの受託研究「再処理施設臨界安全技術開発等」の成果の一部を含みます。