図5-17 濃度上限値算出のための評価シナリオと被ばく経路
表5-1 各処分方法に対する濃度上限値の推奨値一覧
「濃度上限値」とは、低レベル放射性廃棄物の埋設事業の許可申請を行うことができる放射性核種濃度の最大値のことです。我が国では、放射性廃棄物の処分方策として、放射能濃度に応じ、高レベル放射性廃棄物相当の処分(地層処分)のほかに、3種類の処分方法(トレンチ処分,ピット処分,余裕深度処分)が考えられています。これら後3者の処分方法については、その特徴に応じ、処分できる放射性核種の濃度に上限値(基準値)が設けられます。再処理工場の運転などから発生するTRU廃棄物については、まだ基準値として定められていませんでした。このため、これらの処分方法を対象としたTRU廃棄物の濃度上限値を導出する評価手法を整備し、その基準値を決める必要がありました。
私たちは、まず、過去に開発した、原子力発電所廃棄物を対象とした濃度上限値評価コードをベースに、TRU廃棄物の特徴である崩壊連鎖に伴う放射能の減衰や増加などを考慮できるコンピュータ・コードの開発を進めてきました。このコードは、3種類の処分方法に想定される処分場(人工バリア)の仕様やその周辺の地層(天然バリア)条件の違い及び様々な評価シナリオ(処分場跡地の建設作業や居住を想定したシナリオ,天然バリアにおける地下水により移行した核種の河川への流入を想定したシナリオ)に対応した濃度上限値を求めるための被ばく線量の評価ができるものです。(図5-17)。
私たちは、各処分方法に応じた人工バリアと天然バリアの条件を設定し、このコードを用いた被ばく線量の計算結果から、TRU廃棄物の重要核種を選定し、それらの核種の最大となる被ばく線量を求めました。
算出した被ばく線量の結果は、原子力安全委員会報告書「低レベル放射性固体廃棄物の埋設処分に係る放射能濃度上限値について」(平成19年5月21日)に採用されました。この報告書では、私たちの被ばく線量の算出結果に測定の容易性や実際に発生する廃棄物の核種濃度のばらつきなどの検討を加え、濃度上限値として推奨する核種及びその基準値を決定しております(表5-1)。更に、その濃度上限値の推奨値は、2007年に改正された政令及び2008年に経済産業省によって改正された省令にそれぞれ規定されました。
本研究は、経済産業省原子力安全・保安院からの受託研究「放射性廃棄物処分の長期的評価手法の調査」の成果の一部です。