7-7 超高温ガス炉燃料のさらなる高性能化に向けて

−炭化ジルコニウム被覆燃料粒子の開発−

図7-15 被覆燃料粒子の構造

図7-15 被覆燃料粒子の構造

二酸化ウラン(UO2)の燃料核を耐熱性のある薄いセラミックスで四重に被覆した非常に小さな被覆燃料粒子が高温ガス炉の燃料です。

 

図7-16 ZrC被覆実験装置

図7-16 ZrC被覆実験装置

装置内部で粒子をガスで吹き上げ、まるで噴水のように流動させながら1300℃以上の高温でジルコニウム臭化物とメタンガスを化学反応させてZrC層を被覆します。

図7-17 ZrC被覆粒子の写真

図7-17 ZrC被覆粒子の写真

実際のウラン燃料粒子の重さに似せたジルコニア球を用いた被覆実験やZrC層の原子数比などの測定技術開発を通じて、高品質なZrC層(C/Zr原子数比1.00)を蒸着することに成功しました。現在はZrCと熱分解炭素を連続被覆するより高度な被覆技術の開発を進めています。

高温ガス炉は1000℃近い高温の熱を取り出せる固有の安全性に優れた原子炉で、水素製造や高効率発電などへの利用が期待されています。また、第四世代原子炉システムの一つである超高温ガス炉(VHTR)は最有力候補として国際的にも高く評価されています。

高温ガス炉の燃料は、図7-15のような耐熱性のあるセラミックスで作られた被覆燃料粒子です。HTTRで使われている被覆燃料粒子は図7-15の第三層の材料に炭化ケイ素(SiC)を用いていますが、私たちはSiCを炭化ジルコニウム(ZrC)に置き換えたZrC被覆燃料粒子の開発を進めています。ZrCはSiCに比べて融点(SiCでは熱解離温度)が高く、ウランなどの核分裂で生成するパラジウムなどの金属との化学反応が起こりにくい材料です。そのため、ZrC被覆燃料粒子は従来よりも更に高温で使えて更に長く燃やすことができる、VHTRの性能や経済性を飛躍的に向上できる燃料として世界的にも期待されています。一方、ZrC被覆燃料粒子の性能を十分に発揮させるためにはZrとCの原子数比が1:1のZrC層を蒸着することが重要です。そこで私たちは、図7-16に示すZrC被覆実験装置を製作し、ジルコニウム臭化物とメタンガスを用いた独自のZrC化学蒸着技術や、ZrC層を検査するための測定技術を開発しました。

当初得られたZrC層は、断面に不均一な縞模様のある品質の低いものでしたが、透過型電子顕微鏡などによる分析を通じて、原因がZrC層中に析出した縞状の遊離炭素であることを突き止め、その元となるメタンの過剰な熱分解反応を抑えるため被覆温度を1300〜1400℃に低く安定化させたことで均一なZrC層を蒸着することに成功しました。並行して、ZrC層の原子数比を誘導結合プラズマ発光分光法と赤外吸収法を組み合わせて100分台の精度で測定する手法を新たに開発できたことで、図7-17のように高品質なZrC層が得られる製造条件を把握することに成功しました。今後は将来の実用化に向けた大型装置(kg規模)の設計につながるデータを取得するとともに、私たちが製造したZrC層を米国の研究炉で照射し、照射に対するデータも取得することにしています。

本研究は、文部科学省からの受託研究「革新的高温ガス炉燃料・黒鉛に関する技術開発」の成果を含みます。