図7-1 原子力基礎工学の四つの役割
図7-2 森林環境中炭素循環の解明
原子力機構の原子力基礎工学研究部門では、我が国の原子力研究開発の基盤を形成し、新たな原子力利用技術を創出することを目指しています。原子力基礎工学に関する研究分野は多岐にわたり、その研究開発活動は図7-1のように四つの役割があります。これらの役割を果たすため、核工学・炉工学研究,燃料・材料工学研究,環境・放射線工学研究,核熱応用工学研究を進めています。
核工学・炉工学研究では、革新的原子力システムの創出と、それを導く最先端核物理・炉設計技術の開発を進めています。2007年度には、中性子核反応断面積を高精度かつ効率的に評価できる核データ評価コードの開発(トピックス7-1)や核データ測定を進め、これらを用いて高速炉の臨界性予測精度を大幅に向上させるJENDLアクチノイドファイルを完成しました。また、拡張バイアス因子法と呼ぶ手法を考案し、多数の臨界実験の結果を用いた設計誤差の定量化、誤差低減に必要な実験・解析手法の改良効果の定量的把握ができるようになりました。更に、解析を主体とした熱設計手法の実現を目指して、詳細二相流解析手法、検証データ取得のための三次元熱流動計測技術の開発、次世代原子力システムのための熱工学データベースの整備を進めました。トピックス7-2は計測技術に係る成果で、熱流動分野ばかりでなく他の分野への展開が期待されています。併せて、放射性廃棄物処分に係る負担軽減を目的として、長寿命核種を短寿命化する「核変換技術」の基礎研究も行っています。
燃料・材料工学研究では、革新的核燃料サイクル技術の基盤形成と原子力プラントの健全性・信頼性確保のための研究開発を進めています。将来の核燃料サイクルでは、現在は高レベル廃棄物に区分されているマイナーアクチノイド(MA)をリサイクルすることによる廃棄物処分の負担軽減が期待されています。そこでは、MAのふるまいを理解し、制御することが必要です。そのために、モノアミド抽出剤による高除染(高純度)ウランの分離技術,MA(Am,Cm)の分離技術,高性能抽出剤の研究開発など、アクチノイド,核分裂生成物の分離技術の研究開発とともに、MA含有燃料に関してMA酸化物の基礎物性測定などの高速増殖炉サイクルの主概念,副概念の研究開発を支援する基盤研究とアクチノイド個体化学や溶融塩化学に基づく革新的な技術の研究開発を行っています(トピックス7-3)。また、放射線照射下の腐食環境といった原子力特有の複合環境下での材料劣化機構の解明とその対策の研究を進め、原子炉材料の応力腐食割れ,照射損傷,腐食損傷の機構解明などで成果を挙げています(トピックス7-4)。
環境・放射線工学研究では、環境中での放射性物質などの移行挙動(環境動態)の研究(図7-2)、原子力技術を活用した廃棄物の無害化・資源化技術の開発、環境中の極微量物質の分析・監視技術の開発とともに、最新科学に基づいた放射線防護の確立を目指して、放射線の人体への影響を解明する放射線影響解析研究、各種放射線による線量評価のための研究、放射線に対する挙動解析・遮へい手法の研究を進めています。トピックス7-5は、遺伝子レベルでの正確な被ばく線量評価を可能とする放射性核種データベース開発の成果で、核医学診断・治療などの進展への貢献が期待されます。トピックス7-6は、保障措置技術として必要なウランを含む極微小粒子の濃縮度を、質量分析なしで迅速な推定が可能な世界で唯一の環境試料分析法の開発に関する成果です。
核熱応用工学研究では、原子力エネルギー利用の多様化を図るため、高温ガス炉とこれを用いた水素製造に関する研究開発を進めています。高温ガス炉技術基盤の確立を目指し、高温工学試験研究炉(HTTR)の出口温度850℃、30日間連続運転を行い、燃料性能など各種データを蓄積するとともに、燃料の閉じ込め性能が世界最高水準であることを確認しました。また、HTTR試験データに基づく高温ガス炉特性評価手法の高度化、燃料の高燃焼度化及び黒鉛構造物の長寿命化を目指した研究も進めています。トピックス7-7は炭化ジルコニウム(ZrC)被覆燃料粒子の開発に関する成果で、超高温ガス炉燃料のさらなる高性能化が期待されます。核熱による水素製造の技術開発では、高分子電解質分離膜を用いたヨウ化水素の濃縮やトピックス7-8のような熱化学法ISプロセスの高効率化の研究とともに、高温部配管の低コスト化のためのガラスライニング材,硫酸及びヨウ化水素溶液の組成の間接的計測法などの耐食材料・機器の検討を進めています。