7-1 信頼性の高い核反応データの提供に向けて

−統合核データ評価コードCCONEの開発−

図7-3 原子核反応の種類

図7-3 原子核反応の種類

 

図7-4 CCONE による計算例と測定値との比較

図7-4 CCONE による計算例と測定値との比較


原子炉の設計や放射線遮へい設計,臨界安全などの安全評価では、中性子などのふるまいを精度良く予測する必要があります。この中性子などのふるまいは物質を構成する原子核との様々な核反応(図7-3)によって決められます。この核反応の起こりやすさを決めているのが核断面積です。この核断面積などの核反応に関するデータが核反応データです。このため、信頼性のある核反応データが精度の高い原子炉の設計などには不可欠になります。この核反応データや放射性核種の半減期などは核データと呼ばれ、原子力利用の基礎となっています。特に、中性子による核反応データは原子炉などへの応用で重要なものです。信頼性のある設計や安全評価にはその基礎となる核データの信頼性が重要となります。このため、原子力利用のための核反応データを提供するための活動が原子力利用の初期の段階から行われてきました。核反応データは、原子核物理の理論や測定が基となっていますが、原子炉などでの中性子のふるまいの予測には核分裂で生じる高いエネルギー(約10MeV)から熱中性子エネルギー(0.025eV)までの広い範囲で物質との核反応データを提供する必要があります。物質を構成する原子核は天然に存在する安定なものでも220種類を超える上、測定を行うにも全エネルギー範囲をカバーすることは困難です。そのため、測定データや理論計算を適切に組み合わせて利用可能な核反応データを提供することになります。理論計算といっても、このような広い範囲の核反応を一つの原子核理論で記述することは現状ではまだ無理があります。このため、様々な理論を組み合わせて予測することになります。このとき、異なった理論間の整合性を保つことに多大な労力を必要とします。このため、用いる理論間の整合性を保った統合核データ評価コードCCONEを独自に開発しました。このコードは、オブジェクト指向プログラミング言語を用いているため、多数の原子核を生成する複雑な核反応でも生成する原子核やその崩壊をオブジェクトとして動的に生成することで、中性子やγ線のスペクトルを微視的に計算することを容易にしました。これまでトリウム,ウラン,プルトニウム同位体などの評価に用いられ、有用性,実用性が確認されています。図7-4に示したのは質量数238のウランに中性子が入射した後に放出される中性子のエネルギースペクトルを示しています。様々な核反応過程(直接過程,前平衡過程,核分裂過程:全スペクトルはこれらの核反応過程で生じる中性子を足し合わせたものとして現れます)が関係していますが、CCONEの計算結果は測定値を良く再現しています。今後、より信頼性のある核反応データの提供に向けて核データ評価に使われることになります。なお、CCONEの開発では2008年3月、日本原子力学会賞特賞・技術賞を受賞し、高く評価されています。