9-1 廃棄物中の放射性ストロンチウムを測定する

−放射性廃棄物の処分に向けた簡易・迅速分析法の開発−

図9-2 90Srに対する簡易・迅速分析法の概要

図9-2 90Srに対する簡易・迅速分析法の概要

 

図9-3 従来法と簡易・迅速法による90Sr定量値の比較

図9-3 従来法と簡易・迅速法による90Sr定量値の比較

原子力機構から発生した放射性濃縮廃液の分析を従来法と開発した簡易・迅速法により行ったところ、両分析法による90Srの定量値は良く一致することが分かりました。

研究施設から発生した放射性廃棄物を安全に処分するためには、その中に含まれる放射性核種の種類と濃度を把握する放射能評価が不可欠です。私たちは合理的で信頼性の高い放射能評価手法を確立するため、放射化学分析により原廃棄物(処理前の廃棄物)中の核種組成・濃度・分布などのデータの収集を進めています。

放射能評価が必要となる放射性核種の一つに90Srがあります。この核種は、β線のみを放出するため、外部から非破壊で測定することができません。このため一般に90Srの分析では、対象試料を溶液化した後、イオン交換分離や沈殿分離などの方法を用いてSrを分離し、更に90Srの子孫核種である90Yの生成を2週間程度待ってから放射線計測が行われています。このように、従来分析法では分離法が非常に煩雑であり、分析に長時間を要することが問題となっていました。

そこで私たちは、多数の原廃棄物試料を効率良く分析することを目的に、90Sr分析の簡易・迅速化を図る方法について検討しました。まず、原廃棄物の試料溶液から90Srを効率的に分離する方法としては、繊維状のテフロンにSr吸着剤を固定したディスク形状の固相抽出剤を用いて(図9-2(a))、マトリックス元素や他の放射性核種から短時間で選択的にSrを分離できる条件を明らかにしました。

更に、固相抽出ディスクにより分離した90Srは、ディスクの表面に吸着させたままの状態でβ線スペクトロメトリー法(図9-2(b),(c))を適用することで、90Yや共存する89Srから放出されるβ線の影響を受けることなく、短時間で簡易に定量することに成功しました(図9-3)。これは、GM計数管とプラスチックシンチレータによる同時計測からβ線エネルギースペクトルを求め、このβ線スペクトルをスタンダードライブラリと比較・解析することにより90Srのみの定量を可能とする方法です。

このように、煩雑な分離法が不要で90Yの生成を待つことなく90Srの分析を可能とする簡易・迅速分析法の開発を進めた結果、分析所要日数を従来法の1/3〜1/5程度に短縮するとともに、分析により発生する放射性廃液などの二次廃棄物も大幅に削減することができました。