図14-15 RIMSを用いたNa漏えい検知システムの基本概念
図14-16 Na原子のイオン化スキーム
ナトリウム(Na)冷却型高速増殖炉では、Naの微小漏えいを早期に検知することが重要です。しかし、現行のNa漏えい検出器は、いずれも原理的にNaエアロゾルを検出するため、冷却材配管周辺の雰囲気に含まれる海塩粒子がバックグラウンドとなり、高感度化が達成できても、雰囲気の塩分濃度より低い微量の漏えいNaを検出することはできません。そこで、高速炉の1次冷却材Naの中性子核反応で生成し、漏えいしたNaのみに含まれる放射化Naに着目して、この放射化Naの検出にレーザー共鳴イオン化質量分析法(RIMS: Laser Resonance Ionization Mass Spectrometry)を適用することにより、バックグラウンドの塩分の影響を受けない高感度なNa漏えい検知技術を開発しています。
本研究では、現行のNa漏えい検出器の2〜3桁程度まで検出感度を高めることを目標として、RIMSを検出原理としたNaエアロゾル検出装置を設計・製作し、放射化Naの検出性能を評価します。高速炉の1次冷却系から漏えいした微量のNaを検出するシステムの基本概念を図14-15に示します。RIMSを用いたこのシステムでは、図14-15の(1)〜(5)の5段階を経て、漏えいしたNaを検出します。
これらのプロセスについて、机上検討に加えて基礎実験も行い、有力な手法を選択して、検出システムの基本構成を考案しました。Naエアロゾルの採取には、エアロダイナミックレンズを用いてビーム形状に収束させて連続的に導入し、レーザーアブレーションによりNaエアロゾルを原子化します。原子化されたNaは、紫外線領域のパルスレーザーを用いて、図14-16に示すように1光子でリュードベリレベルまで励起し、パルス電場によりイオン化する方法を採用しました。
続いて、Na検出装置の設計・製作を進めており、本装置の最適化を行ったあと、「常陽」の1次冷却材を用いた試験により、放射化Naの検出性能を評価します。本研究により、高感度なNa漏えい検出技術を開発して高速炉プラントの安全性を一層向上させることにより、高速増殖炉サイクルの実現に寄与していきます。
本研究は、文部科学省からの受託研究平成17年度及び18年度「レーザを用いた超高感度分析技術による高速炉のプラント安全性向上に関する研究」の成果です。