図3-2 プラズマの圧力分布の模式図
図3-3 プラズマ断面の模式図
図3-4 磁場の乱れを抑制した例
核融合炉においては圧力の高いプラズマを定常的に維持する必要がありますが、プラズマの圧力の増加とともに不安定性(乱れ)が発生しやすくなります。不安定性が発生すると熱や粒子が外に逃げ、プラズマの圧力が低下してしまいますので、不安定性を抑制することが重要です。ITERで重要視されている不安定性として新古典テアリングモード(NTM)があります。NTMがないときはプラズマは入れ子状になった磁力線により閉じ込められていますが、NTMが発生すると「磁気島」と呼ばれる構造が現れ、その結果圧力が低下してしまいます(図3-2)。NTMを抑制するためには磁気島領域に電磁波を入射して電流を流すことが効果的で、JT-60などで有効性が実証されてきました。より効果的にNTMを抑制するためには磁気島の内部にのみ電流を流すことが必要と考えられていました(図3-3)。これは、磁気島の外部に電流を流すとNTMを逆に増幅させるためです。しかし、高いパワーの電磁波を数kHzという高速でオン/オフし、更にそのオン/オフを磁気島の回転に同期させるという技術上の難しさがあったため、実験的な検証は不十分でした。
JT-60では(1)出力が数10万〜100万Wの電磁波を高速(約5kHz以上)でオン/オフするための改良、(2)磁気島の回転を実時間で検知してそれに同期した制御信号を送るシステムの開発を行いました。実験に適用した例を図3-4に示します。時刻Aでの磁気島の回転周波数は約4kHzですが徐々に増加し、時刻Bでは約6kHzとなっています。図3-4(b)と図3-4(c)はそれぞれの時刻における磁場の乱れの信号と電磁波の入力パワーです。磁気島の回転周波数の変化に応じてオン/オフの周期とパルス幅が適切に設定され、電磁波のパワーが変調されていることが分かります。このような自動的なパワー変調に成功したのはJT-60が世界で初めてです。また、パワー変調により磁気島内部にのみ電流を流した場合、パワー変調を行わない場合に比べ2倍以上抑制効果が大きいことを明らかにしました。ITERにおいても5kHz程度のパワー変調によるNTMの抑制が計画されていて、その効果の検証が待ち望まれていました。今回の成果は、ITERにおけるNTMの効果的な抑制手法を確立する上で重要な結果です。