図3-5 高閉じ込め放電(Hモード)におけるプラズマ圧力の空間分布
図3-6 (a)周辺プラズマにおける圧力指数と回転半径の関係,(b)軽・重水素プラズマ(同一圧力)でのイオン温度分布
核融合炉の出力はプラズマ圧力の二乗にほぼ従うため、核融合炉を成立させるためにはできるだけ高い圧力のプラズマを定常的に保つことが求められます。そのためITERでは、図3-5に示すようにプラズマ周辺部に熱や粒子の流出を妨げる境界輸送障壁を形成し、プラズマ圧力全体を嵩上げする高閉じ込めモード(Hモード)での運転を想定しています。特にこのHモード特有の周辺構造は、プラズマ周辺領域だけでなく、プラズマ中心部での温度や圧力分布の境界条件としての役割を果たし、核融合出力に強く影響します。そのため、Hモードプラズマの周辺構造の物理を解明し、適切な制御の指針を得ることが極めて重要であり、特に輸送障壁の幅を予測することはITERにおいても装置設計と関連する緊急かつ非常に大きな課題となっています。
プラズマの性質は磁場構造が同一の場合、衝突頻度,燃料粒子の回転半径,圧力指数からなる主に三つの量で表されます。しかし、この周辺領域には電磁流体力学的な不安定性が存在するために、これらの物理量のうち特に回転半径と圧力指数が相互に強く依存しあい、周辺構造を特徴づける因子を決定することが困難でした。そこでJT-60装置では、重水素と軽水素ではプラズマ中で描く回転半径が異なることに着目して、回転半径と圧力指数の相関を分離し、各々の周辺輸送障壁幅に対する依存性を解明しました。図3-6に示すように、単一粒子種では分離できていなかった回転半径と圧力指数の関係を軽・重水素の比較によって世界で初めて分離し、周辺輸送障壁幅の回転半径依存性が比較的弱いこと、一方で圧力指数の依存性が強いことを示すことができました。ITERでは現在のトカマク装置に比べて規格化された回転半径は小さくなることが予想されるため、今回得られた成果は将来の装置での周辺輸送障壁幅は十分な核融合出力を得る可能性を示唆するものであります。