3-3 先進プラズマの崩壊現象を探る

−プラズマ流と多段階現象の解明−

図3-7 先進プラズマ中に発生するMHD現象の時間発展

図3-7 先進プラズマ中に発生するMHD現象の時間発展

時間単位は体系中の波の特性時間τpa=0.1μsec。外側領域では、初期(t=0)からMHD現象が発生していますが、初期段階(t<250)では、内側領域のMHD現象は流れにより抑制されています。MHD現象が急激に成長する段階(t>560)では、プラズマ半径方向に広がった巨視的なMHD現象が観測されています。

 

図3-8 流れによる先進プラズマの低圧力崩壊の回避

図3-8 流れによる先進プラズマの低圧力崩壊の回避

時間単位は体系中の波の特性時間τpa=0.1μsec、外部入力により流れを維持すると、MHD現象は発生するが、プラズマ崩壊には至らず減衰していきます。

トカマクプラズマでは、急激に起こる巨視的な電磁流体(MHD)現象によりプラズマが崩壊し、プラズマの高性能化を阻害するとともに、プラズマ対抗機器に損傷を与える場合があります。したがって、その原因の解明と制御方法の開発が重要な研究課題のひとつです。自発的に流れるプラズマ閉じ込め電流の割合が多く、経済的に優れた炉心プラズマとして期待される先進プラズマ放電では、標準プラズマ放電に比べて低いプラズマ圧力でプラズマ崩壊現象(低圧力崩壊)が発生する頻度が高く、先進プラズマ放電の実用化を阻害する要因のひとつとなっています。しかしながら、先進プラズマ放電で発生する低圧力崩壊の発生条件は、線形理論を中心とした従来の物理モデルで説明することは不可能でした。特に低圧力崩壊では、急激に進む崩壊現象に先立って、異なった特徴を持つ現象が観測されることが多く、このような前駆現象は低圧力崩壊の発生を予測するシグナルとして期待されますが、相互の因果関係は不明でした。

実験では、以下の順序で現象がしばしば観測されます。
(1)プラズマ外側または表面領域で、緩やかに成長する局所的なMHD現象が発生
(2)プラズマ内側領域を含む広い領域で、急激に成長する巨視的なMHD現象が発生
(3)低圧力崩壊が発生

数値トカマク実験研究では、現象(1)〜(3)の関係を明らかにするため、トカマクプラズマ中に一般的に存在するプラズマ流れに着目し、MHDモデルに基づく数値シミュレーション研究を行いました。その結果、実験で観測される現象(1)〜(3)が、それぞれが独立した現象ではなく、連続した物理現象(多段階現象)であることを明らかにしました(図3-7)。プラズマ流れは、流れを挟む二つの領域間の情報伝達を阻害する性質を持ち、しばしば重要な役割を果たします。本研究で見いだした多段階現象では、プラズマ流れにより、ある位置(プラズマ外側領域又は表面領域)で発生した電磁揺動の伝播が流れにより抑制され、本来は巨視的なMHD現象が局所的なMHD現象となり、前駆振動として観測されていることを発見しました。流れにより局在化したMHD現象は、流れに作用して流れを減衰させることにより巨視的なMHD現象となり低圧力崩壊を引き起こします。この知見をもとに、前駆現象である現象(1)のシグナルを検知し、プラズマ流れを制御することによる先進プラズマの低圧力崩壊の抑制方法を考案しました(図3-8)。