3-4 MWを超える高出力中性ビームの世界最長入射

−JT-60SAでの100秒入射に向けて−

図3-9 改良前後のビーム軌道の模式図

図3-9 改良前後のビーム軌道の模式図

改良前、最外のイオンビームが空間電界で外側に反発し、電極に衝突していました。改良後、電界補正板を用いて収束電界を作り、最外のイオンビームの拡がりを抑え、電極熱負荷を低減しました。

 

図3-10 JT-60 N-NBI装置で達成した入射エネルギー

図3-10 JT-60 N-NBI装置で達成した入射エネルギー

2004年から1台の負イオン源を用いて、N-NBIの長パルス化を開始し、2006年には2台のイオン源による長パルス化を行いました。その後、両負イオン源の加速電極の熱負荷を低減して、2MWと1MWの中性粒子ビームを30秒間入射しました。

プラズマ加熱の有力な手段のひとつとして、中性粒子をプラズマに入射する方法があります。中性粒子入射装置(NBI)は多くの核融合実験炉の主要な加熱装置であり、ITERやJT-60SAなどの次期装置でも採用されています。NBIでは、イオン源で高速に加速されたイオンを、ガスで満たされたセル内に通し、高速の中性粒子(原子)に変換し、残留イオンを処理したあと、中性粒子のみをプラズマへ入射します。ITERやJT-60SAでは、プラズマ中心を加熱するために、0.5MeV〜1.0MeVのエネルギーの高い中性粒子を入射する必要があり、中性粒子への変換効率が高い重水素負イオンを用いた中性粒子入射装置(N-NBI)が使用される予定です。

また、ITERやJT-60SA のN-NBI装置に要求される入射時間は100〜1000秒であり、既存のJT-60U装置の定格の10〜100倍に相当します。そこで、JT-60U N-NBI装置を用いて、長パルス化の開発研究を行いました。従来、本装置はビーム入射中に負イオン源の電極熱負荷が増大するため、長パルス化は困難でした。

そこで、電極熱負荷の実測や三次元ビーム数値計算を行った結果、電極熱負荷は図3-9に示すように、電極周辺部で生成されたイオンビームが付近の空間電界で反発され外側に拡がり、イオンが直接電極に衝突することに起因することを明らかにしました。このイオンの直接衝突を抑制するために、電極周辺部に電界補正板を設置し、周辺部のビームの拡がりを抑えることに成功しました。衝突による発熱を抑制した結果、電極の熱負荷を長パルス運転時の許容値(500kW)以下に低減することができました。三段加速方式であるJT-60負イオン源に対して、五段加速方式であるITER用負イオン源においても、同様の対策で電極熱負荷の低減を期待することができます。

この熱負荷低減の対策により、イオン源1台当たり2MWを超えるビームを、世界で初めて30秒間連続して入射することに成功しました(図3-10)。その結果、世界に先駆けて、ITERの標準運転時の核出力の2倍に相当する高規格化ベータ(βN=2.6)プラズマの28秒間生成に大きく貢献しました。また、長パルス入射時の電極の冷却水の温度は約25秒で飽和しており、100秒以上の入射が要求されるJT-60SAやITER用負イオン源の熱設計への見通しが得られました。