図3-11 SINGAP型とMAMuG型負イオン加速器の比較
図3-12 原子力機構が開発したMAMuG型加速器
ITERのプラズマ加熱・電流駆動装置であるNBIには、1基当たり16.5MWの高パワー中性粒子ビームの入射が要求されています。NBIでは加速器で発生した高エネルギーの水素負イオンビームを中性粒子ビームに変換したあと、プラズマへと入射します。この高パワー中性粒子ビームを得るためには、加速器で40 Aの負イオンを1MeVまで加速することが必要となります。これは従来高エネルギー物理学研究用に用いられてきた加速器に比べ二桁以上高い電流です。私たちはMeV級イオン源試験装置において、ITER NBI用1MeV加速器の研究開発を行っています。
NBI用負イオン加速器には、図3-11に示すとおり、イオン源で生成した負イオンを単孔電極で一段加速する単孔単段型 (SINGAP : Single-aperture single-gap)加速器と、トピックス3-4で紹介したJT-60用NBIのように、多孔を持つ複数の加速電極で多段加速する多孔多段型 (MAMuG:Multi-aperture multi-grid)加速器の2方式が提案されています。ITER NBIで必要となる1MeV加速器としてはSINGAP型が主としてフランスで、図3-12に示す五段のMAMuG型が原子力機構において開発が進められてきました。ITERに向けたNBIの加速方式選定のために、EUからの研究者延べ7名を原子力機構に迎え、2007年8月より9ヶ月間にわたり両加速器の性能比較試験を行いました。その結果、以下のことが明らかとなりました。
(1)加速器の耐電圧性能に関しては、MAMuGでは定格の1MV保持が可能であるのに対し、SINGAPの保持可能電圧は最高でも800kVであった。
(2)MAMuGでは796keV,320mAの負イオン加速に成功したのに対し、耐電圧性能が低いため、SINGAPでは672keV,220mAにとどまった。
(3)SINGAPでは負イオンとともに加速され、下流に流出する電子量は、MAMuGの3倍となり、加速器下流に設けられるビームライン機器などへの熱負荷が問題となることが判明した。
以上のように、耐電圧性能,最大負イオンビーム電流,付随電子加速の観点からMAMuGの性能が優れることが明らかとなりました。この結果から、ITER機構は私たちが開発したMAMuG加速器の方式をITER NBIに採用することに決定しました。