日本,欧州,米国,ロシア,韓国,中国,インドが協力して開発を進めているITERでは、高温のプラズマを閉じ込め、制御するために10T以上の高い磁場が必要となります。これには巨大な超伝導コイルを使用します(図3-13)。プラズマ閉じ込めの磁場を発生させるトロイダル磁場(TF)コイルは、高さ16.5m,幅9m,重さ約300tの世界最大の超伝導コイルです(図3-14)。日本はTFコイル9個、全体の1/4のTF導体(Nb3Sn導体)の調達を担当し、2008年から世界に先駆けて、TF導体の調達を始めました。
TFコイルでは、導体を渦巻き状に巻いて積層した巻線部を、これに働く巨大な電磁力(50MN/m)を支持するコイル容器で覆った構造を採用しています(図3-14)。巻線部は7枚のダブル・パンケーキ(DP)と呼ばれるコイル要素で構成され、ダブル・パンケーキは、以下の手順で製作します。(1)1コイル当たり長さ4.6kmのTF導体を、数mmの寸法公差を満足するように、導体長を±0.02%の高精度で管理しながらD型に巻線し、(2)Nb3Sn生成のための650℃、200時間の熱処理を行い、(3)導体に働く巨大な電磁力(800kN/m)を支持するステンレス鋼製のラジアル・プレートの溝に導体を挿入し、(4)導体とラジアル・プレート間を電気的に絶縁して導体固定用の蓋を被せ、(5)最後にダブル・パンケーキ全体に電気絶縁を施します。
巻線では、極めて高い寸法精度が求められているのに加えて、ITERの製作工程を守るために、それぞれのコイルの巻線を4ヶ月以内の短期間で行うことも求められています。このため、高精度の巻線が可能で自動化した巻線機が必要となり、私たちは、巻線機の心臓部となる高精度巻線装置(図3-15)を開発しました。本巻線装置では、導体の曲げ加工時の断面変形を0.2mm以内に抑えるようにローラーの配置を最適化し、さらに、自動巻線時にレーザーで導体表面にマークを付けて、これらの距離を2台のCCDカメラを用いて正確に測定することで、±0.01%の高精度で導体長を測定することを可能としました(図3-15)。加えて、開発した巻線装置で3m/minの巻線速度も達成しました。これらにより、TFコイルで要求される導体長を±0.02%の高精度で管理する自動巻線が可能となり、TFコイルの製作に目途を立てました。