3-7 ITERダイバータプラズマ制御のための計測装置開発の進展

−ITERの過酷な環境で使用できる信頼性の高い分光計測装置の開発を目指して−

図3-16 ITERダイバータ不純物モニターの測定視野

図3-16 ITERダイバータ不純物モニターの測定視野

上部ポート,水平ポート,ダイバータポート及びダイバータカセットのそれぞれに光学系を配置し、ダイバータ部を様々な方向から詳しく計測します。

 

図3-17 極小回帰鏡アレイ

図3-17 極小回帰鏡アレイ

(a)全体図 (b)走査電子顕微鏡写真

 

図3-18 ITERダイバータ部におけるヘリウム原子のスペクトル線(HeI線:波長587.6nm)発光強度分布

図3-18 ITERダイバータ部におけるヘリウム原子のスペクトル線(HeI線:波長587.6nm)発光強度分布

赤の箇所が強く発光しています。

ITERでは核融合出力500MWを400秒以上維持することが目標となっています。そのため、これまでの計測装置では経験したことのない、高温,高放射線,高粒子束といった過酷な環境下での計測装置の開発が必要です。

ITERダイバータ不純物モニター装置は、ダイバータ部における不純物や重水素及びトリチウムのスペクトル線の発光強度分布を紫外から近赤外の広い波長領域で分光測定する計測装置です(図3-16)。不純物やダイバータの制御になくてはならない貴重なデータを提供します。現在、実機の製作に向けた光学設計と機械設計を行うとともに、プラズマ直近でも使用可能なMoミラーによる光学系の試作試験を進めています。
 運転期の高温,高放射線,高粒子束により光学性能が劣化し、不純物流入束を10%以内の精度で測定するという要求性能を維持することが難しくなることが懸念されています。そのため光学系の感度を常時モニターすることのできる「その場感度較正」方法の確立が、解決すべき最重要課題のひとつでした。そこで、ITERの運転期間中であっても「その場感度較正」を行うことのできる新しい方法を開発しました。この方法では、入射光が同じ光路に戻ってくる極小回帰鏡アレイの開発が鍵となりました。外部より導入した光を光学系の先端部まで通し、ここに設置した極小回帰鏡アレイで反射させ、検出器に戻った光の強度から、光学系全体の感度を知ることができます。

使用した極小回帰鏡アレイは、一辺が0.1mmの極小回帰鏡を整然と並べたものです(図3-17)。この極小回帰鏡アレイを上部ポート光学系の実機規模光学系に組り込み、原理実証試験を実施し、ITERにおいても適用可能なことを確認しました。

ITERでは核融合反応で生成されたヘリウムがダイバータ部に流れてきます。周辺プラズマの数値計算モデルと衝突輻射モデルを用いてヘリウム原子のスペクトル線の発光強度分布を評価しました。得られた発光強度分布を図3-18に示します。図3-16に示した複数の視野でダイバータ領域を観測することで、観測した視線積分強度から、二次元分布を計算することが可能となります。実際、ダイバータ隙間光学系の位置を最適化することで、10cm程度の空間分解能を達成できることを確認しました。これにより、図3-18に示したような複雑な構造を持つ発光分布を、精度良く計測する見通しを得ることができました。