3-11 核融合炉材料の実証のために

−核融合材料照射用中性子源IFMIFの液体Liターゲットの開発−

図3-25 IFMIFの液体Liターゲットの概念

図3-25 IFMIFの液体Liターゲットの概念

液体Liはノズルで絞られ高速流になり、凹面状の背面壁に沿って流れる間に重陽子ビームの入射により強力な中性子を発生します。

 

図3-26 熱応力解析モデル

図3-26 熱応力解析モデル

対称性により、二種の材料をつなぎ合わせた背面壁とターゲットアセンブリ(部分)のうち1/4(X>0,Z>0)をモデル化して解析を実施します。

 

図3-27 ビーム運転中背面壁の熱応力解析結果

図3-27 ビーム運転中背面壁の熱応力解析結果

中性子が最も強い中心部はLiと接触してそれと同温度になり、むしろその周辺の肉厚部が高温となります(左)。この温度差により二種の材質からなる背面壁に熱応力が発生しますが、応力緩和部が変形することで十分小さくできます(右)。

核融合炉に用いられる材料の開発のためには、候補材料に対して、重水素−三重水素の核融合反応で発生するエネルギー14MeVの中性子による損傷等を評価することが必要です。国際核融合材料照射施設(IFMIF:International Fusion Materials Irradiation Facility)はこのために大強度の中性子を発生し、材料への照射試験を行う施設です。現在、日欧間の国際協力であるBA活動の一環としてIFMIFに関する工学実証・工学設計活動(EVEDA:Engineering Validation and Engineering Design Activities)が実施されています。

図3-25はIFMIFの中性子発生部である液体リチウム(Li)ターゲットの概念を表したものです。重水素の原子核である重陽子(D)を加速器で40MeVまで加速しLiターゲットに入射して、D-Liの核反応により14MeV程度の中性子を大量に発生させます。そのための加速器ビームパワーは平均10MW(40MeV,250mA)にもなるので、Liを液体状にして高速で流すことにより除熱します。また、加速器の真空条件下でも液体Liが沸騰しないようにするため、流路の底面を凹面状にして遠心力を発生させ、Li流れ内部の圧力を上昇させて沸点を上昇させます。この凹面状のLi流路底面を形成する背面壁は強い中性子照射を受けるため、中心部には低放射化フェライト鋼(F82H)を用います。その中心部の厚さは中性子の減衰をできるだけ抑えるため非常に薄く(1.8mm)する必要があります。

私たちはこのような過酷な条件下での背面壁構造の成立性を熱応力解析(図3-26)で検討しました。その結果、ビーム運転中で中性子核発熱により図3-27(左)のような温度分布となる場合でも、図3-27(右)に示すように背面壁周囲に円弧状の応力緩和構造を設け、これが変形することにより半径方向の圧縮熱応力を最大でも286MPaとして許容値以下にできることを明らかにしました。

EVEDAではこのようなIFMIF実機の設計と並行して、重要な技術について様々な実証試験を行うため、Li試験ループを建設しています。IFMIF実機と流体的に同等なLi流れを発生させて高速Li流れの安定性とループ全体の長時間の安全・健全運転を実証し、同時に流れ計測技術,不純物トラップによる純化能力も実証する計画です。