図3-23 FNSにおける二重微分断面積測定の体系図
図3-24 ベリリウムからの放出アルファ粒子の二重微分断面積の測定値
現在、研究開発が進められている重水素と三重水素を用いた核融合炉では、核融合反応によって生じる14MeVの中性子がエネルギーの大半を担います。この中性子は、核融合炉内の機器(ブランケット等)と様々な核反応を起こしながらそのエネルギーを失い、一方、機器の方はエネルギーを与えられて発熱します。これらの機器の健全性を担保するためには、あらかじめ中性子との核反応によって発生する発熱量を精度良く見積もっておく必要があります。また、核融合炉で発電を行う際には、このような中性子との核反応によって付与された熱エネルギーを利用することになりますので、その発熱量を正しく予測することが必要となります。
このような中性子との核反応による発熱は核発熱と呼ばれ、核融合炉の設計の中でシミュレーション計算によって算出されます。この計算の際に必要となる基礎データが、中性子との核反応によって放出される荷電粒子(陽子,アルファ粒子等)のエネルギー分布と角度分布を与える、二重微分断面積です。
私たちは核融合中性子源施設(FNS)において、核融合炉の機器を構成する材料からの放出荷電粒子に対する二重微分断面積の測定を進めています。測定を行った体系の概要を図3-23に示します。今回、その材料として最も重要なもののひとつであるベリリウムからの放出アルファ粒子の二重微分断面積の測定を行い、世界で最も詳細なデータの取得に成功しました。得られたデータを図3-24に示します。この測定データをもとにベリリウムの核発熱への変換係数を算出し、我が国の核反応断面積データベースであるJENDL-3.3及びITERの設計に用いられてきたFENDL-2.0から算出した核発熱への変換係数と比較しました。その結果、これらの核反応断面積データベースから算出した核発熱への変換係数が15%程度小さく、核発熱を15%程度過小に見積もることが分かりました。また、この原因がこれらのデータベースのベリリウムからの放出アルファ粒子の二重微分断面積に問題があるためであることも分かりました。
このように、私たちの測定した詳細なデータを用いることで、データベースのどの部分がどのように問題であるかを初めて具体的に明らかにし、核融合炉でのベリリウムの核発熱の予測精度向上に向けて大きな成果を上げることができました。