4-1 強く相互作用した電子の集団的揺らぎを観測

−電荷ストライプの集団励起の研究−

図4-2 強い電子間相互作用が働く場合(銅酸化物の例)
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図4-2 強い電子間相互作用が働く場合(銅酸化物の例)

La2-XBaXCuO4でBa濃度ゼロの場合、電子は強い相互作用(斥力)のため動けず絶縁体になります。ホールを導入すると高温超伝導体へ変化します。各黒矢印は電子の持つ磁石の性質を表しています。超伝導を示すBa濃度領域では電子が縞状に整列します。その縞状の電子の集団励起を観測しました。

 

図4-3 縞状に整列した電子の集団励起の観測
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図4-3 縞状に整列した電子の集団励起の観測

縞状に整列した電子の周期構造に対応する運動量変化(Qs)で測定した共鳴非弾性X線散乱スペクトル(青のデータ)と電子の周期構造と無関係な運動量変化で測定した共鳴非弾性X線散乱スペクトル(赤のデータ)の比較。いずれの物質においても電子の周期構造に対応する運動量で測定したデータに電子の集団励起に起因するシグナルを観測しました。

私たちは、東北大学及び米国アルゴンヌ国立研究所と共同で、物質の中で強く相互作用した電子が起こす集団的な揺らぎ(集団励起)を観測することに世界で初めて成功しました。

現代の物理学において、金属中の伝導電子のように互いに相互作用のない自由電子の振る舞いは、理論的・実験的に良く理解されていますが、互いに強い相互作用を持つことで集団的に振る舞う場合には理論的扱いも困難になり、良く理解されていません。しかし電子の相互作用が強い物質では、高温超伝導を代表例とした数々の新規かつ有用な性質を示すことが知られています。

今回、私たちは、電子が強い相互作用を示す典型例である銅酸化物高温超伝導体と関連物質のニッケル酸化物において、電子の集団的振る舞いを調べました。これらの物質では強い相互作用のために、図4-2に示すように縞状に電子が整列した状態(電荷ストライプ状態)が現れます。

本研究では、大型放射光施設SPring-8と米国アルゴンヌ国立研究所の大型放射光施設Advanced Photon Sourceを用い、共鳴非弾性X線散乱法という手法で、銅酸化物及びニッケル酸化物において、電荷ストライプ集団励起(縞状に整列した電子が集団で周期的にその位置を変えること)を直接観測することに成功しました。図4-3のように、今回測定した二種類の物質では電子の縞構造が異なっており、銅酸化物は縞が縦に整列し、ニッケル酸化物では縞が斜めに整列します。その両者でストライプ集団励起が観測されたことで、縞状に整列した電子状態に普遍的な集団的揺らぎが存在することが明らかになりました。また銅酸化物における高温超伝導ではこのような電子間の強い相互作用に起因する集団的揺らぎが必要であることが示されました。

今回の観測の成功により、電子の集団励起という物質科学における新たな研究ジャンルを開拓しました。また今後、電荷ストライプ集団励起の研究を進めることで、その観測物質が示す高温超伝導の機構の解明につながることも大いに期待されます。