図5-2 Plavsk地域における137Csの地表汚染分布
図5-3 Plavsk地域における131I甲状腺負荷量
環境中における放射性核種の移行挙動を評価し、人への被ばく経路を予想し、被ばくの程度を推定するために、様々な数学モデルが用いられます。こうしたモデルは、原子力施設の許認可の際の安全評価や事故時の影響評価、あるいは事故後の線量再構成といったあらかじめ十分な測定データが得られていない場合に、放出される放射性核種の人や環境への影響を推定するために用いられます。特に、評価モデルの結果が安全や許容レベルに関する規制の判断などに用いられる場合には、科学的な理解だけでなく公衆の理解を得るという点からも、数学モデルによる評価結果の信頼性の程度を明らかにしておくことが重要となります。
こうした観点から、放射性核種の生態圏における移行モデルの妥当性を検証するための国際共同研究として1986年にスウェーデン放射線防護研究所の主催でBIOMOVS計画が開始されて以来、私たちはこうした国際共同研究に参加し、様々な被ばく状況,環境媒体及び放射性核種について、野外の実測データを利用して関連する移行モデルの妥当性,信頼性の検証研究を進めてきました。
国際原子力機関(IAEA)によるBIOMASS計画やEMRAS 計画では、原子力発電所や核燃料施設に起因する環境影響評価で重要な131Iと137Csに着目し、チェルノブイリ事故で得られた野外の測定データを利用して、原子力施設の確率論的安全評価に用いるため原子力機構で開発した環境影響評価モデルOSCAARの生態圏移行及び被ばく評価モデルの妥当性を検討しました。図5-2及び図5-3は大気,土壌,農畜産物などの環境媒体中の131Iと137Csの測定データを用いて、大気から農作物、土壌から農作物、牧草から畜産物への移行モデル及び人のヨウ素代謝モデルの妥当性を検証した例です。このような研究からモデルの予測性能を検証し、モデルやパラメータの不確かさを評価して、環境評価モデルの信頼性向上に役立てています。