5-2 原子炉内で長期間使用された燃料被覆管の酸化挙動

−LOCA時の酸化速度に及ぼす高燃焼度化の影響−

図5-4 様々な被覆管の酸化速度と酸化温度の関係

図5-4 様々な被覆管の酸化速度と酸化温度の関係

長期間使用された高燃焼度被覆管では、未照射被覆管に比べて酸化速度が小さくなることを示しています。未照射の条件では、改良合金被覆管(M5,MDA)の酸化速度は従来のジルカロイ-4被覆管(Zry-4)と大きな違いがないことが分かります。

 

図5-5 高燃焼度被覆管の酸化試験後の断面写真

図5-5 高燃焼度被覆管の酸化試験後の断面写真

被覆管外面側では、原子炉照射中に形成された腐食層のき裂位置だけで高温酸化が進行しています(図中矢印)。腐食層には高温水蒸気中での酸化を抑制する効果があることを示しています。一方、被覆管内面ではほぼ一様な酸化層が見られます。この酸化層の成長は、未照射の被覆管とほぼ同等であることが明らかになりました。すなわち、水素吸収や照射損傷といった腐食以外の高燃焼度化の影響は小さいと考えられます。

軽水炉では、ウラン資源の有効利用などを目指して、燃料をより長期間使用する、いわゆる高燃焼度化が進められています。私たちは、事故条件を模擬した試験を行い高燃焼度燃料の事故時挙動や安全性を調べています。

原子炉の安全設計に当たって想定される事故のひとつに、原子炉から冷却材が流出してしまう冷却材喪失事故(LOCA)があります。LOCA条件下では、燃料被覆管は水蒸気との高温反応によって酸化され、酸化量が増大すると被覆管の延性が低下することから、燃料のLOCA時安全性を確認するためには被覆管の酸化速度を精度良く評価することが重要です。高燃焼度化に伴って、燃料被覆管の腐食や水素吸収が進行し、これらが被覆管の高温酸化挙動に影響を及ぼす可能性があります。また、高燃焼度化に対応するために新しい材質(改良合金)の被覆管が使用されつつあり、被覆管材質を変更しても悪影響を及ぼさないことを確認する必要があります。そこで、高い燃焼度まで使用された燃料被覆管を用いて等温酸化試験を行い、酸化速度に及ぼす高燃焼度化や被覆管材質の影響を調べました。

図5-4に、高温酸化によって生じる重量変化をもとに評価した酸化速度についてまとめます。高燃焼度被覆管の酸化速度は、未照射被覆管を超えることはなく、比較的低温ではむしろ小さくなっています。図5-5は、酸化試験後の被覆管断面を拡大した写真です。原子炉内で長期間冷却水と接触したため、被覆管外面には厚い腐食層が形成されています。被覆管外面での高温酸化層の成長は、腐食層のき裂位置だけで進行していることが分かります。被覆管の材料であるジルコニウム合金と水蒸気との酸化反応は、酸化層中の酸素イオンの拡散に律速されると考えられています。腐食層が存在することで金属層表面への酸素イオンの供給が妨げられ、高温酸化の進行を抑える働きをしたと考えられます。一方、調べた範囲においては、水素吸収量の増大や被覆管材質の変更は酸化速度にほとんど影響を及ぼさないことが明らかになりました。現在安全評価に用いられている酸化速度式(Baker-Just式)が、改良合金被覆管に対して高い燃焼度領域まで適応できることが確認されました。

本研究は、経済産業省原子力安全・保安院からの委託研究「燃料等安全高度化対策事業」(2007年度)の成果の一部です。