5-3 ペレットの結晶組織が照射中に変化するのはなぜか

−UO2ペレットの結晶組織に発生するひずみと組織変化の関係−

図5-6 高燃焼度燃料ペレットの結晶組織観察結果

図5-6 高燃焼度燃料ペレットの結晶組織観察結果

光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて原子炉内で長期間使用されたペレットの横断面を観察しました。ペレットの表面近くの領域は、中間部や中心部に比べ細かなFPガス気泡が高密度に析出するなど、製造時の結晶組織から著しく変化していました。

 

図5-7 結晶子に生じた不均一ひずみと結晶子サイズの燃焼度依存性

図5-7 結晶子に生じた不均一ひずみと結晶子サイズの燃焼度依存性

高燃焼度燃料ペレット内部の結晶子に生じた不均一ひずみと結晶子サイズを微小領域X線回折により調べました。転位の持つひずみエネルギー密度と転位密度の燃焼度依存性などから、燃焼度50GWd/t近傍に見られる不均一ひずみの減少は、照射に伴い発生した転位の集積(転位壁の形成)に起因するものと考えられます。結晶子のサイズは100〜200nmであり、リム組織で観察されている微細化した結晶粒の大きさと同程度でした。

ウラン資源の有効利用と燃料サイクルコスト低減を目的として、原子炉内での原子燃料の使用期間を延ばす高燃焼度化が段階的に進められています。原子燃料の使用に伴い、熱源であるペレットには核分裂生成物が蓄積し、また被覆管には冷却水による腐食が生じるため、高燃焼度化を進めるに当たっては、燃料の安全性を十分に検討しておく必要があります。

高燃焼度まで使用したペレットの表面近くには、微小な気泡が高密度に析出するとともに製造時結晶粒が微細化した領域が観察されます(図5-6)。このような製造時と異なる結晶組織はリム組織とよばれ、析出した気泡には高圧の核分裂生成ガス(FPガス)が蓄積されています。反応度事故(RIA)などペレットに急激な温度上昇が加わることによってこの領域に蓄積されたFPガスが燃料棒内部に多量に放出されるようなことが起こると、ペレットと被覆管の間の熱伝達の劣化によるペレット温度上昇や燃料棒内部のガス圧力の上昇による被覆管の変形が生じるなど、燃料棒の健全性に影響する可能性があります。したがって、リム組織の形成条件を把握しておくことは重要な研究課題のひとつです。

燃焼度の異なるいくつかの燃料ペレットについて周辺部及び中間部で微小領域X線回折を実施し、回折ピークの角度から格子定数を、回折ピークの広がり具合から結晶子(一つの単結晶とみなせる領域)に生じた不均一ひずみと結晶子サイズを測定しました。格子定数については、燃焼度とともに単調に増加して燃焼度約70GWd/tでピークを示し、それ以上の燃焼度で若干減少しました。不均一ひずみについては50〜55GWd/tでいったん低下したあと再び増加する傾向が見られました(図5-7)。また、格子定数の伸びと結晶子に生じた不均一ひずみから結晶組織に蓄積されたひずみエネルギー密度を評価したところ、50〜55GWd/tの範囲で一定値を示しました。これらの結果から、結晶粒の微細化は照射に伴い発生した転位の集積に起因すること、微細化の開始燃焼度が50GWd/t近傍にあることが示唆されました。このように照射に伴うペレット結晶組織変化のプロセスを調べることによって高燃焼度におけるリム組織発生条件を把握することができ、燃料の健全性をより詳しく評価することが可能になります。

本研究は、原子力委員会の評価に基づき文部科学省原子力試験研究費により2005年度に実施されたものです。