8-2 回転機器の安定運転への取組み

−ショックパルス法による状態監視−

図8-5
拡大図(183KB)

図8-5

(a)圧縮波の発生
軸受における圧縮波と振動の発生を模式的に示しました。圧縮波は転動体と軌道面との衝突の瞬間に発生して軌道面内を拡散します①②。SPM法は、この圧縮波を測定することで診断します。また、振動は衝突後の転動体の運動エネルギーにより発生します③ 。従来の振動法は、この振動を測定することで診断します。
(b)圧縮波の大きさと油膜の関係
軸受内に発生する圧縮波の大きさと油膜厚さの関係を模式的に示しました。油膜厚さが薄くなると圧縮波は大きくなり④⑤、傷が生じると非常に大きな圧縮波が発生します⑥。なお、SPM法のLP値は、右図に示す赤色領域にあるような大きなパルスの強度を表しており、SP値は、緑色や黄色領域にあるような発生数の多いパルスの強度を表しています。

 

表8-1 軸受の測定結果(一例)

不規則に異音が発生している軸受について、振動法及びSPM法による診断を行った結果、振動法では振幅が通常値に比べて大きいものの、交換基準値である約120μmを下回っているとともに、速度,加速度ともに顕著な上昇傾向が見られないことから、軸受交換を必要とする異常は認められませんでした。一方、SPM法では、LP値が当該軸受の交換基準値である値約25dBを上回っており、軸受を交換する必要があると診断されました。
表8-1 軸受の測定結果(一例)
※1: Large pulse
※2: Small pulse

 

 

図8-6 軸受の転動体の状態

図8-6 軸受の転動体の状態

転動体に剥離が生じていることが確認できます。

東海再処理施設における送風機,ポンプなどの回転機器は、放射性物質の閉じ込め機能や高放射性液体廃棄物の冷却機能などに使用されています。回転機器を安定して運転するためには、軸受の取付不良や潤滑不良などによる軸受損傷に注意する必要があります。

東海再処理施設では、回転機器の軸受管理に、測定器の可搬性や取扱い容易性の観点から、従来から振動法による簡易診断を行ってきました。しかしながら、振動法による軸受管理では、回転機器本体で発生する振動の影響により、軸受状態の把握が難しい場合があり、結果として潤滑不良に起因した軸受損傷が比較的多く発生していました。このため、回転機器の安定運転に向け、軸受の潤滑管理を強化する必要があり、潤滑管理に適用可能な手段について調査,検討した結果、軸受内で発生する圧縮波を測定,利用する方法が有効と判断されました。

軸受における圧縮波や振動は、軸受内の転動体と軌道面との微小な衝突により発生します。この圧縮波の強度は、軸受内の油膜厚さや損傷の程度により増減するため、この特性を利用したショックパルス(SPM)法を再処理施設の回転機器の軸受管理に適用することで、潤滑管理の定量化を図りました(図8-5)。

表8-1は、回転機器の軸受診断にSPM法を適応した例を示しています。従来の振動法では軸受交換を必要とする異常はないと診断されましたが、SPM法では当該軸受の交換基準を上回っており、軸受交換が必要であると診断されました。当該軸受の状態を確認したところ、転動体に剥離が生じていました(図8-6)。

SPM法は、このように軸受状態に対する感度が高く、軸受管理に適した診断法です。一方、SPM法のこうした特性は、状態監視保全の観点から過度の交換を要求する可能性があり、今後、診断データの蓄積を図り、軸受の適切な交換基準を設定していく必要があります。

また、適切な潤滑状態を維持した長期的な軸受の使用は、軸受に疲労や磨耗を蓄積させます。このような軸受の劣化は、異常な圧縮波を発生しない場合もあるため、軸受管理においては、振動法による簡易診断も併せて行うことで、更なる軸受の劣化状態の把握が可能となり、一層の回転機器の安定運転が可能になります。