図12-8 ジョセフソン接合と振り子モデル
図12-9 鉄系超伝導体の工学応用
超伝導とは、超伝導転移温度以下で電気抵抗が突然ゼロになる現象を指し、その性質はエネルギー輸送に革新をもたらすだけでなく、従来の限界を遥かに凌駕する超高感度・超高速デバイスを実現させます。現在、原子力分野では、これらの優れた特性を活かすべく研究開発が行われ(例えば、核融合炉で要求される巨大な磁場を発生させるには超伝導コイルが必須です)、機能材料として期待は高まる一方です。
2008年、鉄系超伝導体と呼ばれる鉄を含む全く新しい超伝導材料が発見されました。この材料は、銅酸化物に次ぐ高い超伝導転移温度を有し、様々な化学組成でも超伝導性が現れるため、用途に応じた柔軟な材料設計が期待されています。さらに、超伝導の有用性の起源ともいえる超伝導ギャップが複数個、少なくとも3個存在している点が特徴的です。従来の多くの超伝導体では1個しか存在しませんので、鉄系超伝導体は特異で、多様な有用性を備えているといえます。私たちは、複数超伝導ギャップに起因する機能特性を探索すべく、理論構築とシミュレーションを実施し、特に、重要な超伝導デバイスであるジョセフソン接合について、その特性を明らかにしました。
まず、従来型ジョセフソン接合の理論に立ち戻り、その接合部を流れる超伝導トンネル電流の振る舞いが、単一の振り子の運動と等価である点に着目しました(図12-8(a))。そのモデリングの単純さは、デバイスの理解と応用に有用です。そこで、私たちが取り組んだ課題は、接合のひとつの超伝導電極を鉄系超伝導体に置き換えた場合(図12-8(b))、振り子モデルがどう変更されるかでした。研究の結果、トンネル径路が複数となるため、複数個の互いに結合した振り子モデルになることを突き止めました。そして、この結合した振り子モデルに基づき、鉄系超伝導デバイスの多様な電気的・磁気的性能を予測することにも成功しました。
本成果は、鉄系超伝導体を使ったジョセフソン接合の基礎を与えます。また、超伝導材料の電流特性を評価する枠組みへも応用可能です。今回の成果が鉄系超伝導体の本質を明らかにし、今後の超伝導工学の発展に大いに寄与することを期待しています(図12-9)。
本研究は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)からの受託研究「超伝導新奇応用のためのマルチスケール・マルチフィジックスシミュレーションの基盤構築」の成果です。