図1-27 ホットセル内に設置された遠隔操作式振動試料型磁力計
図1-28 弾き出し損傷量と保磁力の関係(材料:316FR)
高速炉の原子炉容器のような原子炉構造物が受ける照射損傷は、燃料被覆管のような燃料材料ほど厳しくありませんが、放射線環境に長時間、継続的にさらされ、しかもプラント寿命期間中に交換することが困難ですので、適切に監視することがとても重要です。これまでの研究から、照射損傷の指標として弾き出し損傷量が有効であることが知られています。弾き出し損傷量は、プラントの運転履歴から計算により求めることができますが、実際の材料を測定して評価する方法はありません。そこで、磁気測定により弾き出し損傷量を評価することを試みました。磁気測定に着目した理由は、弾き出し損傷による材料中の微細組織の変化に磁気特性が敏感に反応すると期待したからです。
中性子を照射された試料の磁気測定を行うために、遠隔操作式振動試料型磁力計を開発しました。振動試料型磁力計とは、電磁石が作る磁場中で試料を振動させたときに発生する誘導起電力から、飽和磁化や保磁力等の磁化特性を計測する装置です。接近できない照射試料の交換や、装置の保守管理の容易さ、将来の廃棄における放射性廃棄物の削減などを考慮し、装置の各部を試料に近接配置する必要のある測定部と遠隔配置が可能な制御部に分け、前者をホットセル内、後者をホットセル外に分割して設置し、測定部はすべてマニプレータにより操作する方式を取りました。図1-27に、開発した装置(測定部)の写真を示します。
測定結果の例として、図1-28に、保磁力と弾き出し損傷量の関係を示します。材料は、次世代高速炉の候補構造材料である316FR鋼です。弾き出し損傷量が大きくなると、保磁力が小さくなっていることが分かります。このほかに、飽和磁化も弾き出し損傷量と相関があることが分かりました。
このことから、本装置でサーベイランス試験片を測定することで、原子炉構造物の照射損傷を監視できると期待されます。測定は短時間で終わるため、複数のサーベイランス試験片について測定すれば、より信頼性の高い評価ができます。また、本手法は試験片を破壊することなく測定ができるので、測定後に試験片を原子炉内に戻せば、限られた試験片の本数でもプラントの全寿命期間の評価が可能です。さらに、同一試験片について、寿命期間中に繰返し評価を行えば、試験片の材料特性のばらつきに影響されることなく、弾き出し損傷量の時間的な変化を把握することができます。