1-12 ナトリウムの活性度抑制制御へのチャレンジ

−ナノ粒子との原子間相互作用による反応抑制技術の開発−

図1-29 ナノ粒子分散ナトリウムの概念

図1-29 ナノ粒子分散ナトリウムの概念

ナノ粒子がナトリウム中に分散すると周囲のナトリウム原子と原子間相互作用(原子間結合と電荷移行)を生じ、それによる反応抑制が生じることが分かってきました。

 

表1-1 ナノ粒子分散による特徴と物性の変化

表1-1 ナノ粒子分散による特徴と物性の変化

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図1-30 燃焼反応挙動の比較

図1-30 燃焼反応挙動の比較

ナトリウムは反応が増大していますが、ナノ粒子分散ナトリウムは明らかに炎が小さくなり、抑制効果が確認できました。

高速炉冷却材のナトリウムは、熱伝導率が高く伝熱流体として優れた特性を有していますが、水や酸素との反応が活性という特性も有しています。そのため高速炉では、設計・設備対応により十分な安全性を確保しています。しかし、ナトリウム自身の活性度を低減することができれば、設備対応によらない一層の安全性向上と機器の簡素化による合理化など経済性向上が期待できます。本研究では、ナトリウム自身の化学的活性度を抑制するという独創的な技術開発にチャレンジしています。

本研究の概念を図1-29に示します。液体ナトリウム中にナノメートルサイズの粒子(ナノ粒子)が分散すると、粒子表面原子とナトリウム原子が原子間相互作用を生じ、これにより反応抑制が有意に生じることが分かってきました。このとき、粒子を微細化し比表面積を大きくすれば低分散量でも原子間相互作用が期待できるので、高速炉の冷却材で要求される優れた伝熱流動性を損なうことなく、反応抑制のみを実現できる可能性があります。

これまでの研究により、理論的に原子間結合力の増大とナトリウムからナノ粒子への電荷移行が確認され、実験的に原子間相互作用による特性の変化を確認しています(表1-1上段)。一方、小粒径・低分散量による伝熱流動性への影響を明らかにするために、熱伝達率,融点や粘性などの物性を測定しナトリウムと比較したところ、有意な変化がなく、高速炉の伝熱性能をほとんど変化させないことを確認しています(表1-1下段)。また、ナトリウムの純度管理方法への影響を調査し、ナノ粒子濃度が不純物除去前後で変化していないことなどから、従来の方法に適用できる見通しを得ています。さらに、試作したナノ粒子を分散させたナトリウムの水や酸素との反応における反応抑制効果の確認も進めており、反応熱量の低減や反応速度の抑制を示す結果が得られています (表1-1,図1-30)。今後は、反応抑制のメカニズムを解明するとともに、高速炉の運転環境下での反応抑制効果と冷却材としての適用性を確認し、ナノ粒子分散ナトリウムの実用化の見通しを明らかにする予定です。また、このようなナノ粒子表面の原子間相互作用を利用した技術は、ナトリウムの化学的活性度の抑制だけでなく、他の媒体の特性改善への応用が期待できます。

本研究は、文部科学省からの受託事業「ナノテクノロジによるナトリウムの化学的活性度抑制技術の開発」の成果の一部です。