2-10 深部地球化学環境の長期変遷を探る

−地下水‐鉱物‐微生物の相互作用に関する研究−

 

図 2-20 水理地質特性の長期変遷

図2-20 水理地質特性の長期変遷

この地域では、地層の堆積,埋没やその後の隆起,浸食により水理地質特性の異なる複数の領域が形成されてきました。

 

図2-21 地質現象の相互関連と地球化学環境の変動幅
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図2-21 地質現象の相互関連と地球化学環境の変動幅

各時代の地質現象とその相互関連を整理することで 、地球化学環境にかかわる主要プロセスやその変動幅を推測することができます。また、各現象の持 続性を考察することで将来の地球化学環境の変遷を類推することができます 。

地層処分にかかわる安全評価では、地層処分場周辺の地球化学環境の将来変遷を推測する必要があります。その方法として、過去から現在までの地球化学環境の変遷を理解した上で、将来の評価期間に外挿・類推する手法が挙げられます。本研究では、北海道幌延地域を事例として、過去から現在までの地球化学環境にかかわる現象 を整理した上で、深度約500mの地下水の塩分濃度,pH及び酸化還元状態(Eh)の変遷について考察してみました。

この地域には新第三系の海成層である稚内層,声問層が分布しており、これらの地層の水理地質特性をその形成プロセスに基づいて整理した結果、(1)相対的に空隙率の高い声問層、(2)高透水性構造が形成された深度約400m以浅の稚内層、(3)深度約400m以深の低透水性の稚内層に領域区分することができました(図2-20)。地層堆積時の地下水(間隙水)は海水であったと考えられますが、(1)〜(3)の水理地質特性が形成される過程で地球化学環境は変化しています。(1), (2)においては、約100万年前からの地層の隆起・侵食により地表から降水が涵養し、海水が洗い出され淡水〜汽水環境になっています。(3)においては、海水の1/3〜1/2程度の塩分濃度の化石海水が保持されています。(3)に焦点を当てると、約100万年以前まで続いた地層の埋没に伴う圧密作用により岩盤の透水性が低下したあとは、地表の気候変動や地形変化の影響が及ばず、長期的に地下水が置換することのない閉 鎖的な地球化学環境にあったと推察されます(実際に 36Cl濃度に基づく地下水の滞留時間は、100万年以上です)。

この閉鎖環境における地下水の塩分濃度,pH及びEhにかかわるプロセスには、様々な水-鉱物-微生物相互作用が挙げられます(図2-21)。長期的な塩分濃度は、これらの相互作用により堆積時の海水の塩分濃度と現在観察される塩分濃度の間にあったと考えられます。また、pHについては、炭酸塩鉱物の溶解・沈殿による緩衝反応が堆積直後から現在まで続いており、中性付近のpH条件が維持されてきたと推測されます。Ehについては、堆積直後は硫酸還元菌による硫酸還元反応のため強還元状態にあり、硫酸イオンが消費され尽くした後は、含鉄鉱 物の反応により還元状態が維持されてきたと考えられます。以上のシナリオに基づくと、塩分濃度は海水の濃度〜海水の1/3程度、pHは8〜6、酸化還元電位は約−100〜−300mV程度の範囲にあったと推測できます。また、これらにかかわるプロセスは、数10万年間以上にわたって持続してきた現象であり、将来も長期にわたって継続していくと類推することができます。