ガラス固化体中に閉じ込められていた放射性核種(元素)が放出される際に起こる最初の現象は、ガラス固化体に接触した地下水に放射性核種が溶出することです。溶出した放射性核種の化学形と溶解度は、地層処分の安全評価を行う上で重要な基盤情報になります。放射性核種の溶解度を測定する実験は数多く行われているものの、放射性核種の化学形や溶解度は地下水の水質に依存する上、地下水組成が一般的な溶解度測定実験より複雑であるため、私たちは化学平衡計算を行うために必要な熱力学定数をデータベース化することが必要と考えています。
国際的にも熱力学データベー ス(TDB)の重要性は認められており、経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)では四半世紀を超える長期間にわたって国際的なTDBプロジェクトが進められています。このプロジェクトでは、膨大な実験結果に対して詳細なレビューが行われ、科学的根拠に基づく熱力学データを選定した上で、2009年現在で9元素に対するTDBが整備されています。私たちもこのプロジェクトに参加しています。
今回私たちは、科学的根拠に基づく文献レビュー及び熱力学データ選定過程についてOECD/NEAのガイドラインを踏襲しつつ、地層処分の安全評価のために対象とする元素や化学形を拡張した形で原子力機構熱力学データベース(JAEA-TDB)を整備しました。私たちは、特に図2-7に示す25種類の安全評価上重要な放射性核種(元素)について文献をレビューし、熱力学データを選定しました。その結果、JAEA-TDBには、安全評価上重要な元素の溶解や錯生成に関する880件の熱力学データ、炭酸やリン酸など地下水の組成に関係する180件の熱力学データ及び岩盤中に含まれる主要な鉱物と水の間で起こる140件の熱力学データが収納されています。更に私たちは、JAEA-TDBにおいて選定された熱力学データが矛盾なく組み合わされていることを多方面から検証することで、TDBの信頼性を確保しました。JAEA-TDBを用いると、図2-8のフローに従い安全評価のための基盤情報を提供することができます。
私たちはJAEA-TDBを、汎用地球化学計算コード “PHREEQC”等で利用可能なテキストファイルにしてイ ンター ネット上で公開しています(https://migrationdb.jaea.go.jp/)。是非ご利用ください。