2-4 実際の表層環境における放射性核種の移行をモデル化する

−生物圏評価モデル構築のためのアプローチの提案−

図2-9 実際の環境条件を反映した生物圏評価モデル構築のための作業フローの概要

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図2-9 実際の環境条件を反映した生物圏評価モデル構築のための作業フローの概要

広域地下水流動解析による流出域の絞り込みの結果に基づき、表層環境における地下水流動解析を行い、核種流出域を推定した上で、対象領域と環境構成要素を設定します。また、土地や水資源利用の情報に基づき被ばく経路を設定し、それぞれの設定に基づき、生物圏評価モデルを構築します。

 

図2-10 実際の表層環境の情報を用いた生物圏評価モデルの構築のイメージ

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図2-10 実際の表層環境の情報を用いた生物圏評価モデルの構築のイメージ

図2-9の「(1)対象領域と環境構成要素の設定」においては、表層環境における地下水流動解析の結果から、それぞれの環境構成要素にどれくらいの放射性核種が流出するかを推定し、流出域を設定します。この結果に基づき、生物圏評価モデルのパーツ(環境構成要素)を設定します。

地層処分安全評価においては、処分場から流出した放射性核種が地下水等によって運ばれ、人間が生活する環境に到達することをシナリオの一部として想定しています。評価においては、処分場から表層環境に到達した放射性核種により人間が受ける放射線量を算出することが求められます。放射線量の算出にあたっては、環境中の放射性核種の移行や周辺環境(食物等を含む)から人間への移行(被ばく)をモデル化しており、この一連の流れを生物圏評価と呼んでいます。

現在、地層処分事業はサイト選定の段階にあります。現段階の生物圏評価にかかわる研究開発においては、実際の環境条件が与えられた場合に、そこでの現象をモデルに取り込む手法や、優先的に取得しておくべき重要な情報の一覧を整備しておく必要があります。それと同時に、入手した情報を具体的にどう利用するかの手順を示すことが重要となります。そこで、実際の環境条件を反映した生物圏評価モデル構築のための作業フローを作成しました(図2-9)。本作業フローでは、モデル構築の対象となる範囲(対象領域)とパーツ(環境構成要素)の設定(図2-10)に関して、まず、表層環境における地下水の流れを把握する手順を示しています。この結果を用いて、表層環境のどの部分に放射性核種が流出してくるのか(流出域)を推定することから、生物圏評価モデル構築の対象領域と環境構成要素を特定するための出発点として非常に重要な作業となります。また、作業に必要な情報項目(地形,気象,水理・水文データ等)をフロー中に示しました。

本作業フローの作成と並行して、「事業・調査の各段階において入手可能な表層環境における情報一覧」を準備しました。この一覧には、対象領域と環境構成要素,被ばく経路の設定に必要な情報と情報源(参照文献等)を示しています。作業フローと一覧を統合することにより、生物圏評価を実際に行う際のガイドとなる「対象地域の実際の環境から得られる情報の取扱い手順」を具体的に示すことが可能になります。なお、このような手順は、評価に必要な情報とその重要度が各国で異なることから、諸外国の実例も参考にしつつ日本として独自に構築する必要があります。今後は、表層環境における水理・物質移行の取扱いなど、本作業フローにおいて必要となる評価・解析手法を充実させることにより、生物圏評価技術を体系的に示した知識ベースとして活用することを目指しています。